忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

願いは星に込めて


 乗り出した窓から、ユーリは中庭からしなやかに伸びている笹を眺めていた。街灯のない眞魔国の夜は闇そのものだが、目を凝らせば風に揺らされているのが見える。
「ユーリ」
「なに? コンラッド」
 背後から声をかければ、こちらの姿を確認することなく名を呼ばれる。彼の視線は笹から、満天の星空へと移動していた。
「お風邪を召しますよ」
 夏とはいえ、眞魔国の夜は昼間と比べてぐっと涼しくなる。冷えてはいないかと心配になって、彼の両腕をなぞるように手を這わせた。
「大丈夫だよ。寒くないし、夜風が気持ちいいくらいだ」
 タイミングよく吹いた風を感じながら、闇に飲まれてしまいそうな黒髪に顔を埋める。今この場所には自分達以外誰もいないのをいいことに、手を腰に回して抱き締めた。
「短冊に何を願ったんですか?」
「んー? みんなの願いが叶いますように、って」
 窓にかけていた体重をコンラートの胸に預けて、そっと頬を擦り寄せてくる。何気ない仕草でも、他の誰にもしない彼なりの甘えだということが嬉しい。
 けれどそんな恋人は、彼自身というより他の者のために願ったという。
「あなた自身の願いはなかったんですか」
「願いが叶う国を作るのが、おれの目標」
 でもそれは目指してるものだから、と楽しげに笑った。
「あんたは何書いたの?」
「ユーリが幸せに笑っていてくれるようにと」
「おれのこと?」
「俺の一番の願いですから」
 見上げてくる夜色の瞳は不思議そうにしていて、口には出さなかったもうひとつの願いは秘密にした。
「おれはさ、あんたも含めて皆で幸せになれれば、すっげー幸せだし笑顔になれるんだ。だから、コンラッド―――」
 不意に、彼が言葉を止めた。その続きを促すために顔を覗き込もうとして、主は反対側を向いてしまう。
「なんでもない。叶うといいな」
「ええ」
 笹に託した多くの願いは織姫と彦星に届き、一体どれだけのものが叶うのだろう。それは誰にもわからないことだけど、腕の中にいる王が作り上げるのはきっと誰もが笑っている平和な国だ。
 根拠はなくても、疑いもせず確信してしまうのは彼がユーリだから。

 贅沢ではあるけれど、どうか。と、二番目の願いを心の中で呟く。

 どうか、彼の幸せを、彼の一番近くで見守っていられますように。



拍手

PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

掲載されている文章・画像・その他すべての無断転載・無断掲載を禁止します。

TemplateDesign by KARMA7
忍者ブログ [PR]