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衝動的に抱き寄せた彼の身体を、きつく抱き締めた。いつからだろう。わからない。ゆっくりと、想いが恋情へと変化していったのかもしれない。
感情を堪えるために瞳を閉じ歯を食いしばるが、この腕の中に閉じ込めてしまっている時点で既に抑え切れていないことは明白だった。
どうして。
どうして、好きになどなってしまったのだろう。こんな汚れた感情を持ったままで主に触れることなど許されるはずがない。
頬にあたる黒髪に口付けを落とす。
熱を持った行為でもその熱さに気が付かないのは、彼の恋愛の対象外に居るからだ。
「な、なあコンラッド、どうしたんだよいきなり」
王の私室で、二人きりになったことを見計らうかのようなタイミングでこんなことをして。ちらちらと扉を気にしているのは、ヴォルフラムが入ってくることを気にしているのだろう。当たり前だ。彼は弟と婚約しているのだから、ただの護衛にこんなことをされても迷惑なだけだ。不敬と罵られても文句は言えない。
戸惑うユーリを離さないまま、どうか、と口の中で呟く。聞こえてしまっただろうか。それでも構わないと囁く狡い自分がいる。
どうか。
好きになって欲しいとは言わない。けれど、どうか。あなたに浅ましい感情を向けることを、赦してはくれませんか。
誰をも虜にする強い眼差しも。夜で染め上げたような美しい髪も。薄紅色の口唇も。
自分のものにしてしまいたいだなんて、決して望んだりはしないから。
ゆっくりと息を吐き出し、瞼をおろす。何よりも大切にしたいから。この世の誰より幸せになってほしいから。だからこそ、想いは封印し続けると誓う。
腕の中の愛するひとの拘束を緩めれば戸惑いを向けられ、絶対的保護者の顔を作って微笑んだ。
「すみません、ユーリも大きくなったと思いまして」
「は? なんだよそれ」
呆れているのか一歩分距離を取られ、真っ直ぐに見上げられる。探るような視線は何もかもを見透かされそうで胸がざわめくが、恋情はすべて胸の内に隠した。
聡明なひとだから隠したことに気付いているかもしれないけれど、彼は異性愛者だ。まさか男に恋愛感情を向けられるとは想像もしていないだろう。
「そのままの意味ですよ」
「ちぇっ、そりゃコンラッドから見ればおれは子供みたいなものなんだろうけどさー、魔族的には成人だぜ?」
「勿論わかっています。あなたは立派な王様ですよ」
そう、口にして自分に言い聞かせる。これ以上踏み込んではならないのだと、刻み込む。
「……さんきゅ」
照れているのか僅かに目元を赤らめて俯いてしまった。狂おしい波に心臓が握られるほどの息苦しさを覚えて、どうして今までこの感情が単なる名付け子に向けたものだと思えていたのかすら理解出来ない。
恋情さえ全て制御出来るものと思っていた。とても容易く、溺れる者の気が知れなかった。だが、これがそうなのか。
持っていないと信じていた感覚は、知らなかっただけだ。
そう俺は、知らない間に彼に溺れてしまっていた。気付いた時には八方塞がりで、動けなくなって。藻掻けば藻掻くほど捕らわれていく沼のような感情に沈み込んでいく。
綺麗な感情だけを向けられたら、どれだけ良かったのだろう。
それでも彼を愛せるというこの事実だけで、俺は誇らしいほどに幸せだ。
決して口にはしないだろう。願うことも、祈ることもおこがましい想い。だがそれでいい。
言葉にしなければ、何も変わらずにいられるというのなら、俺はこの想いさえ封じ込めてしまえる。
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