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焦がされた太陽

この話は、すずしろ苑の聖護院ひじりさんが夢で見たというコンユに萌えてしまい、小説にしたものです。



 憎んでくれるのなら、それで良かった。何の関心も持たれないよりは、その方が遙かにましだ。なのに彼は、いつだって赦してしまう。
 一度だってそんなことを欲したことはなかったのに。

 ずっと好きだった。一番近くにいる人だから、考えていることも、表情さえわかってしまう程長い間、想っていた。だからこそ、彼が向けてくれるのは単なる庇護であって、恋愛感情にはなり得ないと理解してしまったのかもしれない。
 コンラッドが見ているのは『魔王ユーリ』であって、渋谷有利じゃなかった。恋愛ではないなら、他でも良い。一個人を見て、特別な感情を抱いてくれさえすれば、それだけで充分だった。
 そして同じ意味で愛してくれないのならば、憎んで欲しかった。憎しみでいいから、魔王でも主でもない、一介の高校生であるおれ自身を見て欲しくなってしまったのだ。

「……陛下?」
 ほんの少し驚いた様子で目を大きくし、眉を寄せる。たった今ウェラー卿に紹介した彼女は、数日前まで彼の恋人だった。
 知らなかったわけじゃない。知っていたから、誘い込んだ。好きになったわけでもない。彼の表情の変化に、彼女は気付いていないだろう。おれも見えたわけじゃなく、優しいテノールの呟きも聞こえたわけじゃなく、何となくそんな気がしただけだ。
 嫌われたくて、憎まれたかった。そのために何度も行動に移してきたのに、その都度コンラッドに赦されてしまったから、最低なことを繰り返した。
「おめでとうございます」
 そしてまた、彼はおれを赦してしまう。
 泣いてしまいたい。怒ってくれたら、掴みかかってくれたらそれで良かったのに、ウェラー卿はそんな簡単なことさえ放棄し続ける。
 おれが王だから出来ないのはわかってる。だけど王ではなく、一人の人間として、一人の魔族として見て欲しかった。大切なものを奪ったのだから、相応の代価があって然るべきなのに。

 彼女を城の者に送らせてから部屋にこもっていると、躊躇いがちにドアが叩かれた。コンラッドだろう。根拠はなかったけれど、ベッドに転がったまま返事をする。
 重い扉が開かれて、少し伸びたダークブラウンの髪が視界に入った。
「お加減でも悪いのですか」
「そういうわけじゃないよ」
 横になっていたのも判断材料になったのだろう。起き上がってソファ代わりに座ると、スプリングが弾んだ。
「先程……、あの女性を紹介して下さってから、顔色が優れないご様子でしたので」
「なんで怒らないんだよ」
 下ろした爪先を見つめていたが、訝しんでいるのがわかった。彼の表情は見えなくてもわかるのが、こんなにも恨めしいと思ったことはない。わからなければ、期待通りに想像出来たかもしれないのに。
「あの人、あんたの彼女だったんだろ。どうして怒らないんだよ」
「怒って欲しかったんですか」
 扉の前で立ち尽くしていたウェラー卿が歩を進め、すぐ前まで来ると膝をついた。
「あなたが選んだ人だ。彼女と共に居て、陛下が幸せになれるのなら、俺はそれで充分ですよ」
 忠誠心も父性愛もいらなかった。王の地位を求めたことはなくて、保護者でなんて居て欲しくなかった。だけど彼は一番欲しいものだけは与えてくれない。
 一人の男として見て貰いたくて、一人の魔族として接してくれれば幸せで。多くを願うなら、恋愛感情が欲しかった。
 叶わなくても、魔王であるおれと、渋谷有利を切り離してくれれば良かった。
 徹底的に嫌ってくれれば、憎んでくれたなら遠ざけられた。そうしてくれれば諦めもついた。出来ないのは、彼のことが今でも好きだからだ。
「恋人を取られたんだぞ。あの女の人は元々あんたのものだった」
「女性は物ではありませんよ」
 口唇を噛んだ。
 そういうことが言いたいわけじゃないのに、話はいつだって平行線を辿るばかり。彼によって運ばれた魂は彼なしでは産まれなかった命だ。
 好きで仕方がないのに欲しい感情も与えられず、言葉はいつも上滑りする。
 泣きたくなって、かさついた手に顔を撫でられた。温かくも冷たくもない、剣胼胝のある指は目尻を擦り、頬を包まれる。応じるように涙は流れ、彼の手を濡らしていった。
 こんな優しさは必要ない。強く在りたかった。
 それは誰の前でも同じで、彼の前でも同じはずなのに、いつだって弱さを引き出されてしまう。
 嫌って、憎んでしまえたら楽になれた。
 嫌って、憎んでくれたならそれだけで幸せだと思えるほど。
 中途半端な情よりも、どんなものでもいい。地位などという付属品を取り外して、おれだけを見て欲しかった。
 きっとこの男は、この先ずっと変わらないままで生き続けるのだろう。それがどんなに残酷なことか、知ろうともせずに。
 希望をほんの少しだけ与えて、けれど本当に欲しいものだけはくれないまま。
 どうしてこんな男を好きになってしまったのだろう。好きにならなければ、こんな悲しみを味わわずに済んだ。ヴォルフラムを傷付けず、彼が望む王で在り続けられたはずなのに。
 どうして、コンラッドじゃなければいけないのだろう。叶わぬ恋に身を焦がされて、燃えることなく灰になるのなら、恋情など知らないままでいたかった。
 気付きたくなかったけれど、もう何もかもが遅い。
 全てを無かったことには出来なくて、抗えるはずもなく、残酷な手のひらに頬を預けていた。
 子供のままでいられたら、ずっと笑っていられたのに。



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