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どちらから仕掛けたのかはわからない。深くなる口付けに夢中になって、気付けばユーリは押し倒されていた。ただそれだけのこと。
ウェラー卿の部屋の柔らかなベッドに転がされて、深いキスをしながら身体をまさぐる手に、どうしようもないほど熱を煽られていく。
もしかしたら初めから求めていたのかもしれない。けれど、二人でいるうち、肌を重ねたいとどこかで思うようになったのかもしれない。
距離が出来たかと思うと微笑んで身体をずらし、慣れた手つきで服を脱がされていく。下着の紐をもったいつけて引かれ、あっけなく中心が露わにされた。触られてもいないそこは大きくなって勃ち上がっている。
ふ、と男の口角が上がり、顔は羞恥に熱くなった。
「もうこんなになってる」
「いちいち言うなよなっ」
「こっちは?」
伸びた指先が胸の突起を押し潰す。意志とは関係なく身体が跳ね、白いシーツをぎゅっと握りしめた。
弄りながら下肢に注がれる視線にすら感じてしまって、頬をシーツに押しつける。
「っん、……ぅ」
「可愛いですね」
愛おしむ声とともに、こめかみにキスが降らされた。大きな手が自身を掴み、先端から漏れていた先走りのせいで粘着質な音がたつ。
逃げようにもベッドに転がったままでは離れることも出来なくて、上下に動かされる手淫に素直なまでに反応してしまう身体が憎い。
「っ…は、っん」
女の子みたいな声を出すのが嫌で口唇を噛んだら、咎めるようにコンラッドの親指に撫でられた。
「傷になってしまう。声きかせてくれないんですか」
首を横に振れば呆れたように溜め息を吐いている。身体の位置を変えたかと思ったら、前触れもなく下肢を銜えられた。
「ちょ……っ、いきなり…ぃ、あ」
堪える余裕すらなく甘ったるい声を出してしまったことが悔しくて。手のひらで口を覆っても、くぐもった声ばかりが響いて脳が沸騰するかと思うほど恥ずかしい。
敏感な先端に尖らせた舌を突き立てられ、背中を丸める。慌てて掴んだダークブラウンの髪を、くしゃりと掻き乱した。
髪を掴んだまま抱き込んで、もはや、離してしまいたいのか、それとも押さえつけたいのかさえ自分でもわからない。
「気持ちいいですか?」
煽るだけとわかっていて聞いてくる男を睨みつけてやると、何が嬉しいのか目を細めて笑う。
視線を絡ませたままねっとりと追いつめられ、生理的な涙が浮かんで視界が滲んだ。
自慰とは違い、自らの手で制御出来ない熱がひたすらに苦しい。
「っも、コンラッ、ぁ、やめ…っ」
逃げてしまいたい衝動に必死に首を振り、無意識のうちに口にしてしまう。あと一歩というところで彼の動きが止まった。
顔をまっすぐに見られる場所まで位置を変えると、汗ばむ頬が撫でられる。
「やめてほしい?」
答えを知っている顔で、微笑んだ男が囁く。
中途半端に投げ出されて、何を言っているのか理解出来なかった。もう右も左もわからなくなって自分の快楽とコンラッドのことしか考えられないのに、まだ余裕があるのかと怒りさえ沸いてくるほど。
いつもは焦れったいほど優しいのに、たまにこの男は何かのきっかけで意地悪く囁くことがあるのだ。
「ちが…っ」
指で太股の内側をなぞられる。肌が粟立ち、中心に近付くにつれ期待してしまうのに、触れることなく離れていく。焦らすような動きに熱は増し、なのに欲しいものはくれなくて。吐き出してしまいたいのに刺激は足りず、苦痛にさえ感じた。
伸ばした手で彼の汗ばんだ肩を掴む。
「ユーリ、言ってくれないとわからないよ」
嘘だ。嫌かどうかなど、この男はわかっているはずなのに。
いっそ自分で処理してしまう道も浮かんだが、ウェラー卿が見ているということが羞恥をかきたてる。何よりそれだけでは満足出来ない身体が、勝手に先を欲していた。
ノックするように後ろの蕾をつつかれ、喉がひくつく。
「わかりますか? ここまで濡れてきてる」
教えるよりも此方の反応を伺う視線だ。中を傷つけないよう気を付けながら、知らぬ間に用意されていた潤滑油を手にとってゆっくりと指が奥へ入ってくる。掠めるように一番いいところに触れられて、強ばってしまったそこが締め付けた。
足りない。
少しずつ増えていく指も、慣らされた身体は次第に物足りなさばかりを主張してもどかしい。
他人の思う通りにする性格でもないのに、気付けば情けない声が声帯を震わせていた。
「……っと」
「ん?」
「ぃ、いから……っ、もっとしてくれよ」
満足げに笑われて、ずるりと指が引き抜かれた。
ベルトを外す金属音。時間にしてしまえばごく僅かなこの間が、ひどく居たたまれない。
男なのに、入れてもらうのを待つなんて。
そんなことはあてがわれた熱い欲望に息を飲み、貫かれた瞬間に忘れてしまうのだけど。
真上にいるコンラッドを見上げると、先ほどまでの余裕は瞳から消えている。この瞬間が好きだった。
保護者でも臣下でも護衛でもない、ただの恋人の顔。
普段は憎たらしいほど悠然としている男が、この時ばかりはすべてを放り投げる。欲望に塗れた獣みたいな色を湛えた薄茶が、銀の星をぎらつかせてユーリを見つめた。
押しつけられた彼自身が、少しずつ入ってきて。苦しいけれど、前は萎えることはない。
全てを収めると、動きが止まって髪を梳いてきた。
「大丈夫ですか」
気遣わしげに眉を寄せているところをみると、思わず笑ってしまいそうになる。
髪を梳く彼の手を引き寄せると、答える代わりに指先に口唇で触れた。
意図を正確に読みとったコンラッドが腰を両手で掴む。存在を知らせるようにゆったりと動き、それは徐々に早くなっていった。
シャツを脱ぎ捨てた恋人の肩を掴んでいた手が汗で滑る。揺らされながら、どうにかして繋がる場所以外で存在を感じていたくて両腕を首に回した。
ユーリ、と熱に浮かされたような声が鼓膜を犯していく。今は彼の仕草すべてが快楽に繋がった。
「ぁ…は…っ、こ…んらっど…っ」
応えるようにざらついた大きな手が、自身を握り上下に擦る。耳を塞ぎたくなる粘着質な水音が聞こえたが、抗えるだけの余裕など、寸分たりともなかった。
抜き挿しの感覚が狭くなり、お互い迎える絶頂のことしか考えられない。
「あ…、あ、もう…いく、いくから…っ」
「ええ、いいですよ」
敏感な先端を指で弾かれて、スパークした。
「は、ぁ…、ぃ……ぁ…あぁっ」
コンラッドの手に欲望を吐き出すと、殆ど同時に繋がっている場所に温もりが注ぎ込まれ、彼も達したことがわかった。
まっしろい世界に、ずるりと引きずり込まれていく。
目を醒ますとユーリは己の部屋に居た。乱れたシーツの形跡もなく、誰かが入ってきた気配もない。恐らくまだ夜は明けていないのだろう。聞こえるのは、隣で眠るヴォルフラムの鼾だけだ。
毎朝爽やかな笑顔で起こしてくれていた、名付け親の姿もない。
先ほどまで見ていたものは夢だと確信していて、ゆっくりと溜め息を吐いた。眞魔国には全てがあって、彼だけがいない。
歯の浮くような言葉も、意地悪な笑顔も、焦れるほど優しい手つきも、彼の存在さえも。
それならばいっそ起きたくはなかったくらいに、とても幸せで優しい夢だった。
どれだけ望んでも、伸ばした手を取ってはくれなかったあの時に、全ては決まってしまっていたのかもしれない。
もう何度も見ていた。とても穏やかで幸せな、彼との時間が当たり前のように流れていく日々。夢が現実であれば良かったのにと願うほどの幻想。
口唇を噛んで、布団を頭まで引き寄せる。
戻ってはこない時間は、だからこそ美しく輝く。幸せな夢の後は、いつも喪失感が付き纏う。
くるしいけれど、大丈夫だ。何度も護ってくれた彼の剣が、例え自分に向けられる時が来るとしても、支えてくれる臣下が此処には居る。
これからも、立ち止まることはないだろう。彼がいなくてもこの身体は動き、生き続ける。
だから足を止めて振り返りたくなるときに見る夢が、心の底を映すようでひどく哀しくなるのだろう。瞼を閉じて深呼吸をする。
まるで自分に言い聞かせるかのように。
「もう、おれの夢には出てこないでくれ」
閉じていく意識の中で、本音か嘘かもわからずに呟いて。ゆっくりと、眠りに落ちた。
どうか、次に目が醒めたときには、笑えますように。
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