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注意。コンユ前提のヨザコンです。
無理矢理や浮気ではありませんが(私はそのつもりで書きましたが)、合意です。
3Pとかではありません。
あくまでコンラートが想っているのはユーリだけという設定ですので、そういったものが苦手な方や、ヨザコン、コンユが苦手な方はブラウザを閉じてお戻りください。
大丈夫な方のみ↓どうぞ。
からん、と溶けた氷が盃を打ち、上等な酒の最後の一滴まで飲み干そうと呷る。さほど大きな動きもなく、目も合わせずに紡がれるつまらない話を終わらせるには、充分な動作だった。
もう何度呼ばれたか判らない質素な部屋は、昔と違い最低限の物しか置いていない。変わりに散らかることはないが、ヨザックには殺風景にも映った。
椅子の背凭れから背中を離し、小さな円卓に肘をつく。
「そんなに大事なら、さっさと抱いちまえばいいじゃねえか」
品のない笑みをわざと浮かべれば、短い前髪から覗いた眉の古傷が震える。
手元の器を凝視している男の話はいつも同じで、恋人が大切すぎて抱けないことの愚痴だ。愚痴といっても九割が惚気で、毎度同じ台詞で締めているというのに未だに手を出していないらしい。
「なあ、たーいちょー」
わざわざこの席に、酔えもしない酒を出す理由も知っていた。空になった瓶を軽く振って、中身がないことを示す。
不機嫌な顔を上げ、睨むような視線に歓喜を覚えて口元に笑みが増した。
こんな表情、あの可愛い坊ちゃんには決して見せやしない。
宝物みたいに扱って傷つかないように、傷つけたりしないように。会わないうちに浮かべるようになった、胡散臭い笑顔を貼り付けて。
世の中の綺麗な部分だけを教えようとするさまは、時折双黒の主に耳打ちしたくなるのだ。
ウェラー卿の中にある、ドロドロした部分を何も知らないのかと。
「出来るわけがないだろう。あの方は元々異性愛者だ。こんなあさましい感情……知られるわけにはいかない」
「坊ちゃんだって可愛い顔してっけど男だろ。だったらそんなに気を遣う必要なんざないんじゃねえの?」
「陛下だろ、ヨザック」
「へいへい。んで、どうなのよ」
駄目だ。と首を横に振るのは、目に見えていた。同じことの繰り返し。
結論は変わらないまま時間が過ぎていくが、ヨザックにとって徒労に終わるわけではない。
「そうかい。どうせそうだろうとは思った。いらん心配だと、オレは思うけどな」
好きな者同士、肌を重ねたいと願うのは可笑しなことではないだろう。
魔王はコンラートを一人の魔族として接し、そして自らも同じ位置に立とうとしている。なのにこの煮え切らない男は、何度訂正されても彼を陛下と呼び、主として扱おうとした。
想いを通じ合わせてしまっている時点で、後戻りなど出来ないというのに。抗うことが、恋人を傷付ける結果になると気付こうともせずに。
厄介な幼馴染みは、一度決めたことに対して周りが説得しても、聞こうとしない頑固さがある。だから恐らく今回も同じだろうと、嘆息することで諦めた。
「あんなにも純粋な眼差しを向けられて、自分が汚らわしいもののように感じるときがあるよ」
クッ、と喉を鳴らしたコンラートが、口角を歪ませる。その点はヨザックも同意できた。自分の生き方に胸を張れる日は、一生のうち来ないだろう。
これまでも理解してきたつもりでいたが、少年と居ると、特に強く感じるのだ。透明で、純粋で、真っ直ぐに前を見据えて物事に向き合えるひたむきさ。
生きるためなら何でもしてきた。食を得るために盗みも働いたし後悔もない。自分を綺麗だと思ったこともないのに、時折ひどく汚れている気分になり、その都度彼は浄化していくのだ。
「それで、あんたはどうしたい」
わかりきったことを尋ねて、懺悔を終わらせる。どうせここに来たときから、することは一つしかなかった。
黙り込んだ男に肩を軽く上げて、盃を抜き取った。殆ど口をつけていないのだから、あってもなくても同じだろう。それでも酒を出すのは、合図にもなるためだ。
莫迦な奴だ、と、昔の上司を心中で笑う。
不器用なところは何も変わらず、心の底から護りたいと願うものほど持て余して。
口付けすらなく始める行為の全ては、酔えもしない酒のせいにすればいい。
ヨザックや他の兵に与えられる寝台とは、格が違うのだろうか。二人分の男の体重が乗っても、軋むことすらない。
抵抗なくうつ伏せにした男の尻に、自身を奥まで挿入する。潤滑剤で解した場所は、ぐちゅりと粘着質な水音を立てた。
内蔵を圧迫され小さく呻いたのを、聞き逃すことなく一度引いてまた押し込める。
傷だらけの背中に触れれば汗ばんでいて、身体の勝手な反応ににやけた。わき腹にある腸がはみ出たときの傷が視界に入り、指でなぞる。
程良くついた筋肉が背中をしならせるたびに動く。焦げ茶の髪がたゆたい、喘ぎともとれない声と獣のような息づかいで寝台を揺らした。
この行為は、ウェラー卿にとって性欲処理と同じだ。右手の変わりに、たまたまいた者を相手にしているだけ。それが偶然グリエだっただけだ。
女を買わないのは、律儀にも恋人以外に抱くつもりがないからだろう。妙なところで糞真面目なのも変わらない。
気付かれたりしないように、王が地球に戻ったときを見計らい、処理を繰り返す。恋だとか愛だとか、甘ったるい感情をあの主人以外に与える隙はひとかけらもなくて、浮気にもなりはしない。
一方ヨザックは特別な感慨を抱いていたが、かといって変化を望んでもいなかった。
例えば、―――有り得ない例えだが、気持ちが通じ合ったところで上王陛下の次男坊にとって、何より優先すべきはあの少年王だろう。
勿論ヨザックにとっても命を捧げると誓った相手ではあるが、程度が違う。この男は、命だけじゃなく人生を捧げている。だから決して、どんな手を使っても一番にはなれない。
比べることすら不敬だとしても、わかってしまっているからこそ諦めが先に立つ。
最初に誘ったのはどちらだったろうか。
もうそれさえ曖昧で、どうでもいいものになっていた。どちらかが誘って、もう一方は拒まなかった。ただ、それだけのことだ。
ぐい、と細くもない腰を引き寄せて密着する。ずっと奥の狭いところにまで入り込み、肉壁が絡みついてきた。互いに自らの快楽のことしか考えずに、愛撫すら施してもやらない。
代わりに上半身を倒して筋肉のついた肩に歯を立てる。歯形がつくほど強く、噛みつく。口の中に鉄臭い味がするから、皮膚が切れたようだ。
「……っ、おい、ヨザ…ッ」
気付いたウェラー卿が半身振り返り、抗議してきた。当然だろう。痕を付けないのは暗黙の了解で、運動の延長みたいなものには必要ないはずだ。
だからこれは、この瞬間をも壊してしまいかねない、ヨザックの自分勝手な行動だ。
もしかしたら壊してしまいたかったのかもしれない。
純真な主と身体までも満たされるようになれば、繋がることもなくなる。今という瞬間に、幸せを感じたことなど一度たりともなかった。
早く抱いてしまえ。そう言ったこの口で、主の前で脱げぬような痕を付ける。矛盾していると理解していて、本心がどちらなのかすら己の感情でもわからなくなっていた。
「なァに?」
尋ねながら答えられぬよう腰の動きを激しくして、シーツを握って耐える姿を見下ろした。言葉もなく茶髪が揺れる。昔よりずっと短く切られたそれに、妙な息苦しさを覚えて掴むように指を突っ込んだ。
この頭も、坊ちゃんにいいトコロ見せるためなんだろうよ。
見た目より柔らかな髪を掻き乱し、締め付けてきた内壁に遠慮することなく吐き出す。
抱きたいなら早く抱いて自分だけのモノにしてしまえばいい。そうすれば、こんな疼きから解放されるのだから。
楽しいわけでもないのに漏れる笑みは自嘲か、別のものかはヨザックにすら判らなかった。
「どういうつもりだ」
上がった息が落ち着いた頃、不機嫌を隠そうともせずにのし掛かったままでいた身体が振り落とされた。実際には振り落とされる前に、ヨザックは自ら降りていたが。
肩についた歯形から血が滲んでいる。
「どういうつもりってのは、何のことでしょうね?」
惚けてみれば眉を顰めて、素っ裸を隠そうともせずにベッドを降りている。このまま湯を浴びて今夜の痕跡を洗い流すつもりでいるのだろう。これもいつも通りだ。ただ、今回は歯形までは流せないというだけで。
情事の痕を僅かにでも残したくないのか、全てが終わると殆ど会話もなく浴室へ向かう男を見送る。待つ必要はないだろう。
本当に、面倒な奴だ。
藻掻きながら、掴める位置にいることすら気付かない姿は、端から見ればひどく滑稽だ。
しかし同時に思う。
掴めぬ位置にいることに気付きながら藻掻く自分もまた、ひどく滑稽だと。
こんな関係がいつまでも続くはずがない。
次があるのかさえ曖昧ならば、この先何度でも傷を付けていこう。繋ぐ糸になるのか、切り離す術になるのかは、誰にもわからない。
何もかもを知る誰かは、悪足掻きと笑うだろうか。
ならば笑って、こう答えてやろう。
悪足掻きって何ですか。
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