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嫌なことはしないからと微笑んで余裕のある素振りを見せても、実際のところはそんなもの少しもなかった。頬に口唇で触れて、耳たぶをはみ首筋を通って鎖骨に舌を這わす。紅く火照った身体は扇状的で、眩暈がするほどの熱を孕んでコンラートを惑わした。
指先で腰のラインをなぞり下着が外れている中心に目をやると、既に先を期待したそこは硬くなって立ち上がり、蜜を流している。
「あ、あんまり見るなっ」
「どうしてです? 男同士だから別に照れることないでしょう」
それはいつも彼が言っていることだ。状況は全く違うことをわかっていながら意地悪く問うてみれば、意図を正確に察して肩を殴られてしまい困ったふうに眉を下げる。
「ひどいな」
「どっちがだよ!」
脚の付け根に手を這わせて、不意打ちに息を呑んだ彼が身体を強ばらせた。指で先端にかけて辿り、溢れてくる先走りごと握ってわざと音をたてて上下に動かす。
「ぁ、……っ」
瞳が揺らいだのにも構わず続けて、限界が近づいたタイミングでそれを早めれば、呆気なく欲望を吐き出した。
先走りや用意していた潤滑剤でほぐした後ろに、指を入れたまま手首をぐるりと回すと、抑えきれなかった甘い声で愛しい人が啼いた。普段の姿からは想像出来ないほどに淫猥で、いつも以上に美しい。
「も、もう、いいから……っ」
組み敷いた主を見下ろせば白いシーツに闇色の髪を散らして、生理的な涙で潤んだ視線を絡ませてくる。どくりと脈打って、かろうじて繋ぎ止めていた理性が、焼き切れた。
身体を割り込ませて自身を押しつければ、ひくりとユーリの喉が震えたのが見える。緊張を和らげようと頬に触れたら、ふくよかなそれが甘えるようにすり寄った。子供のような無邪気さで。けれど子供ではありえない状況で。意識的か無意識にかは判断がつかないが、上目遣いに微笑んだ彼のその破壊力といったら。
「―――ユーリ」
思いの外余裕のない声が出て、笑い出したくなる衝動を堪え腰を進めた。
肉をかき分けて全てを納めると、ゆっくりと引き抜いて。内壁を擦り、いいところにあたるように動けばシーツの上で、快楽に溺れた。先走りと潤滑油で粘着質な音が響き、もうお互いのことしか考えられなくなる。
「可愛い」
「んなわけ、あるか…っ」
「本当のことなのに」
「っ、ぁ……言うなっ」
否定され、何度繰り返しても認めようとしないところも魅力的だと、苦笑が漏れた。言葉で羞恥を煽られながら、止まぬ律動に身を震わせて受け入れているさまは、嗜虐心を満たしていく。
「あ、ああ…っ、こ、コンラ…ッ、もう…っ」
肩を掴んだユーリの爪が食い込み、同時に肉壁が蠕動して限界へと導こうとする。さわってと、腹に中心を押しつけられてそこを握った。声ごと飲み込むように口唇を重ね、貪る。
絶頂を目指し、部屋には淫らな水音と獣のような息づかいばかりが充満した。
とどめとばかりに前立腺を擦り、奥へと穿つと握った彼自身から白濁が吹き出て意識を失う。それとほぼ同時、コンラートも達した。
「あんた、意地が悪い」
すぐに目を覚ましたユーリに、胡乱な目を向けられた。腕枕をした状態で、間近でそんなことを言われて眉がへにょりと下がったのを自覚する。腰のあたりをさすろうとしたら払われてしまった。
「どこか痛いところでもありますか」
「そうじゃないっ」
まっすぐな黒曜石に機嫌が悪そうに射抜かれた。何故そんなことを言われなければならないのか思い至らず、身体に回そうとした腕が彼の横で戸惑う。
「ユーリ? 嫌なところがあったなら言ってくれないと、治せない」
「それは……」
言おうとして、顔を朱色に染めて口を噤んでしまう。丁寧にしたつもりだったけれど、と呟いたら、何も纏っていない胸をぺちりと叩かれた。
「そういうこと、いちいち言うな」
耳まで紅くなった彼で漸く判り、愛しさに胸が熱くなる。どうしてこんなにも可愛らしいのだろうかと、応えようのないことを尋ねそうになった。
要は、最中にあまり喋るなと言いたいのだろう。笑みが漏れるのを抑えきれずにいると、今度は笑うなと怒られた。
「すみません」
柔らかな頬にあいている方の手をあて、大きな瞳を覗き込みながら親指で目尻を撫でる。情事の間に流した涙の痕さえ、今は喜びに繋がることに気付いてもいないようだ。
満たされている、とこの瞬間を自覚した。誰かに笑いかける彼を目にする度に焼き焦がされていた部分さえ、癒されている時間があるのだと。それは、明日になればまた繰り返すことになるのかもしれないけれど。この時だけは自分だけのひとだと思い上がれた。
どんな言葉でも表せない想いを伝える術なんて、きっと何処にもないのだろう。伝えられなくて、伝えきれなくて。だけどそれでいい。この想いは、伝えきれるものではないのだから。
ありきたりな言葉で誤魔化して、少しずつでも届けばいいのにと願って。
絹糸のような髪をすくい上げ、口唇を落とす。
「だって、あなたが好きだから」
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