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7

私が死んだら、ジュリアという存在は終わってしまう。だけど私が生きてきた証は、きっと何処かに息づいているの。前世や来世なんて関係ない。私は私でしかないけれど大丈夫、大丈夫よ。
 彼女はいつも、大丈夫と言っていた。だから俺は繰り返す。
 大丈夫、あなたなら世界の全てを手に入れられる


ジュリアから与えられたものが、ユーリとの生活の中で生かされていて欲しいです





 夜会が終わり居室に戻ると、部屋からすぐに出て行かず、名付け親が離れた場所で黙っている。酒を勧められる度受けるのは彼で、申し訳ないとは思いつつ、まだ身長に希望を持っているから禁酒禁煙は守りたかった。
 見なくてもわかる顔は、どうやら機嫌が悪いことを示している。
「フォンロシュフォールの御令嬢と、随分親しげに話されていましたが」
 その先を呑み込んでいたが、もう遅い。少し前にただの保護者から、兼恋人になった男は拗ねているようだ。
 思わず吹き出してしまい、ダークブラウンの細い眉が咎めるように顰められる。
「あぁ、ごめん」
 顔に出ていなかったので気付かなかったが、この男は相当酔っ払っているらしい。考えてみれば、いつもより勧められる酒の回数は多かった。今の一言だって、いつもなら頭を口にする前に自制してしまうだろう。
「この間まで一介の高校生だったおれを、あんな美女が相手にするわけないだろ」
 さっきだって、こちらの方が緊張でガチガチだった。
「あなたはとても魅力的ですよ」
「あー、はいはい。酔ってんだろ」
 酔ってない、という酔っ払い相手との押し問答を期待していたが、どうやら八十年の年の差はそれさえカバーしてしまうほどの経験値を生み出していたらしい。
 振り返った彼はそれはもう爽やかに微笑んで言った。
「酔ってますよ。いつだって、あなたに」


君に酔う





 叶えたいとは、思わなかった。届けたいと、望んだこともなかった。  例えば、恋だと気付いてしまったこの感情が、万にひとつでも重なる可能性があったのだとしても。彼を幸せに出来るのは俺じゃない。  柩に納め、火を放つべき感情に鍵をかけ、眠らせよう。  これでさよならだ。

永遠におやすみなさい





 信じられなかった。彼がおれに、剣を向けるなんて信じたくなかった。
 どうしてこんなことになってしまったのだろう。多くの兵士が血溜まりに倒れた。その中には顔見知りの兵士もいた。彼だってそうだろう。それなのに、どうして。
 兵を赤く染めながら、彼の手に掴まれた剣は銀色に煌めく。
 走馬灯が巡る。
 憶えているはずがないのに、幼い頃、初めて彼の腕に抱かれた時のこと。眞魔国に初めて来た時のこと。目前まできたウェラー卿は、目が合うと一番優しい顔で微笑む。
 そしてその切っ先を翻し、自らの胸に突き立てた。
「―――え?」
 崩れ落ちていく身体に、誰もが目を見張った。おれの足元に赤い水たまりが作られていく。ゆっくりとそれは広がり、池へと変わる。
 彼の手によって運ばれ、産まれた命だ。抵抗しなければならないのに、彼の手にかけられる絶望に、身体が動かなかった。彼の手で終わらせてくれるのならそれでいいと、コンラッドの顔を最期に焼きつけようと思っていたのだ。
 それなのに、どうして。
 ダークブラウンの髪はふわりと揺れながら、身体は冷たい床に伏せられる。どうして。
 どうして。
 止めようとする兵士の手を振り切り、駆け寄り顔を覗き込む。
「ユーリ、」
いつものように笑おうとして失敗した顔。見慣れたかたちに動いた唇は、おれが知る中で一番優しい響きを生み出す。
「どうか、最期は」
 息だけで紡がれた言葉は、涙が出るほど哀しくて、苦しい。
 せめて最期はあなたの手で終わらせて。
 なんて自分勝手な男だろう。最低な男なのだろう。それなのに、どうしてこんなにも彼が好きなのだろう。
 大切だから。好きだから。あんたの最期の言葉が、おれに向けてくれたことが嬉しいから。
「わかった」
 本当は、嫌だけど。たとえ敵国の者でも、生きていて欲しかったけれどど。この世界の医療技術では、彼の痛みを長引かせることしか出来ないから。

――――――さよなら。



せめて最期はあなたの手で





 答えてしまったら、何もかもが壊れる気がした。
 だけど、こうして想いの丈を表わされてしまっては、もう逃げる術は持っていなかった。 「おれは、……」
 これまで、誰にも言ったことがなかった。言ってはならないと思っていた。だけど、もう向き合うべき時なのかもしれない。
 いつかは向き合わなければならないことなのだから。
「おれは、コンラッドが好きだから。お前の気持ちには応えられない」
 ごめん、と謝ろうとして、彼の声が遮った。
「謝るな。余計惨めになる」
 眉を顰めて、それでも微笑んでくれた。上手くは笑えていなかったけれど、充分だ。
 ヴォルフラムは本当に好きでいてくれたのだろう。心苦しかったけれど、宙ぶらりんなままでいたくなかったのも事実。初めて口にしたあの名付け親への恋情は、伝えられる時はもう来ないのかもしれない。
 最初で最後になるかもしれない想いを聞いてくれた、何よりおれを想ってくれていたことに、一言だけ伝えたいことがあった。
「ありがとう」
 そう告げれば金髪の美少年は指で額を突き、少し偉そうに胸を張る。
「ぼくを選ばないこと、後悔させてやる」
 美少年らしくなくニヒルに笑って、近い将来三兄弟で一番もてるのはこいつかもしれない、なんて苦笑した。

ヴォルユのようなコンユ





 例えば時には悪魔だとか。例えば時には神だとか。
 そうでなくても秘密を明かせば付き纏う、環境の変化が酷く居心地が悪かったことをこの魂は憶えている。
 だから全てを知って、『僕』の名を呼んでくれることが、何より嬉しいことなんだよ。悔しいから、きみにだけは教えてやらないけどね、渋谷

ムラケンは、デレるけど全てを伝える子でもないと思ってます





 灰色の雲がかかった空を見上げながら、湿った空気を吸い込んだ。
 あの頃、確かに彼女のものでしかなかった魂は主のものとなり、再び誰のものでもなくなった。いつだって守ろうと誓った手は、俺では及ばない力で引きはがされてしまう。
「置いていかないで下さい」
 あなたの元へ、俺も逝きたい。

人間寿命を全うした有利




 置いていかれるのが怖い、とユーリは云う。
 彼だけが歳をとり永久の眠りに就いたとして、他の者は壮絶な空虚を得ても、理不尽なほどに臣下の心臓は動き続けるからだ。だけど、彼は勘違いをしている。
 俺達が彼を置いていくわけじゃない。彼が追い付けない速度で、去ってしまうのだ。


置いていくのは俺たちじゃない。





 古い友人の婚約者だった男の後ろ姿を見つめ、ギーゼラはゆったりと目蓋を伏せた。男は肝心な時になると、女よりずっと弱くなるのよ、と笑っていたのは、あの朗らかな友人だった。
 もう、言葉の真意を確かめる術はない。この手で焼き尽くした、あのひとが生きていた証。
 燃やして、灰にしたのは、 紛れもない彼女だ。
 それぞれの方法で哀しむ二人にとって、ジュリアの存在は大きすぎた。そのせいで死との向き合い方さえ、わからないのだろう。
 ギーゼラとて看取ったのが、火を放ったのが自分でなければ、僅かな希望に縋っていたかもしれない。
 けれど小さくなる背中を見つめながら、莫迦ね、と呟きたくなるのも、仕方のないことだろう。
 彼等がそうすることで、ジュリアの哀しみもまた深くなるのだから。  アーダルベルトも。コンラートも。
 苦しみから逃れる術もないまま塞ぎこんで、折り合いを付けていくことも出来ないまま。
 想い出になってしまったひとを引き摺りながら、この先も生きていくのだろうか。
 魔族を憎み、離反した男も。己を恨み、哀しみを内に閉じ込めた男も。
 いつか、その心を光あるほうへ導いてくれる存在が現れればいいのにと、ため息を吐いた。

ギーゼラ視点




「どうしてそんなことが聞きたいんだい?」
 本当は彼だってわかっているだろうに、ジョゼはやけに真剣な表情で、尋ねてきた。
 たとえば遠い昔、僕が村田健となる前の、或いはクリスティンとなるずっと前の恋愛話を聞きたがるなんて。
「健ちゃんから、話し始めたんでしょ」
 子供を諭すような話し方は、昔から変わっていない。恋愛なんて、長い間していなかったのだろう。秘密を誰にも明かせず過ごしてきた、これまでの魂の持ち主たち。
「そうだったね」
 小児科医の手が伸びてきて、僕の手を握ってきた。あたたかい。
「話したくなったら、いつだって話してくれていいんだよ」
 もう、あの可哀想な人たちのように隠さなくてもいいのだと、彼は言いたいのだ。その温もりがひどく優しくて、目蓋を閉じる。
 想い出すのはどれも、素晴らしく救われないだけの、恋愛話だ。

素晴らしく救われないだけの、恋愛話





「目が見えなくて、不便ではないのか?」
 いつだったか、尋ねたことがある。からかいや興味本位ではなく、予期せぬ石礫に躓き、馬糞を踏んでも懲りず、見える者と同じように動き回る姿に純粋な疑問を持ったのだ。
 唐突であったが故か、空色の瞳を僅かに大きく見開く。
 抱えた花束の向こうでそれを細め、くすくすと笑い始めた。
「そんなに可笑しいか?」
「不便ではあるわ。だけど、そうね」
 かさりと花束を差し出され、受け取ろうとしたら首を横に振られる。包装紙の中にあるひんやりとした花びらに触れ、鼻を近付けた。
 その花特有の香りがする。
「甘い、いい匂いだな」
 それを聞くと満足そうに頷き、自らもその花に顔を寄せる。
「私にも、甘くていい匂いに感じるわ」
  愛おしげに花弁を撫で、見えないことが『当たり前』になっている彼女は、何の憂いも出さずに言葉を紡ぐ。
「見えなくても、見えるのと同じくらい。…もしかしたらそれ以上に、感じるものはあるわ」
「見えること以上に…」
「見えないのは不便よ。だけど不幸じゃない」
 どうして、彼女は質問の真意を汲むのが上手いのだろう。決して不幸に見えていたわけでも、同情しているわけでもない。卑下していたわけでもない。
 彼女はそれら全てを理解した上で、質問の意味を言葉にしたのだ。
  試すような視線を送られて苦笑する。
「きみは見えないはずなのに、誰よりも多くを見ているんだな」
  そうよ、と彼女は、まるであの青空のように明るく笑ったのだ。

次男とジュリア





「初対面の人は、見えないって理由だけで私をみくびるの。失礼しちゃう」
 そんな言葉を聞いたのはいつのことだろう。 湯気の立つスープに口をつけながら、ジュリアは悪ふざけを思い付いた子供のように笑った。
「でもね、昔はこのお陰で、沢山の悪戯が成功したのよ」


アーダルベルトとデート中のジュリア





 ずっと、守らねばと思っていた。王だから。主だから。そんなものは後付けの理由でしかなく、ただ、その笑顔を守り抜きたかった。守っているつもりだった。
  だが実際のところはどうだろう。自身を朗らかな気分にさせてくれたのも、偽りない笑顔を浮かべられたのも、全て彼の存在があってこそだった。
 彼を守っているつもりで、ずっと守られていたのは俺のほうだったのだ。こんなにも単純なことに、漸く気付けたけれど。


次男は有利を護ってますが、有利は次男を精神的に護っていたらいいな。





 教師と生徒ってことはわかってる。こうして呼び出すことで、コンラッドに迷惑かかかってると本当は気付いてる。
 だけど、拒否するならそれでいい。本当は嫌だけど、答えをくれるだけで充分なのに、彼はそれすらしてくれないから。
「どうして何も言ってくれないんだよ」
 声が震えていないだろうかと、そんなことばかり気になった。絞り出した言葉は、きっと、今日も彼には届かないのだろう。


Asuka付録の教師と生徒ネタ





 胸を掴まれているだけだというのに、まるで思い切り殴られたような衝撃を受けた。
 小瓶にあった魂は夏の日に生まれ、腕に抱いた小さな身体。16なんてまだまだ子供だとずっと思っていたのに、気付かぬうちに彼はこんなにも大きくなっていたのだ。
 気付いてしまった今、もう彼をただの名付け子として見続ける自信など、どこにもなかった。


気付けば彼は大人になっていた





 淡い光を放ちながら小瓶に浮かぶ球体を、守りたいと願ったことはないのに。気付けばそう行動している自分に気付いた。
 きっと、初めはジュリアの望みを叶えたかったからだ。
 彼女の魂を、守りたかっただけだ。
 手の中にぎゅっと閉じ込めてみたけれど、今度はその光が見えなくなった。
 手を開いて、いつしか、その光を見つめられれば十分だと思うようになって。だから、そう。
 近くにいて彼の輝きが損なわれるというのなら、遠くからでもいい。
 彼が彼のまま在り続ける未来を選んだだけのことだ。 自分一人がいなくても、彼は王で居られるのだから。


次男→有利

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