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5

「コンラッドって何か欠点とかないの?」
「ありますよ、沢山」
「まったまたァ。たとえば?」
「そうですねぇ…片付け下手です」
「いっつも部屋綺麗じゃん」
「それは、あなたが来る前に片付けているんです」
「えー、ほんとにィ?」
「本当です。あなたに嘘なんて吐きません」
「じゃあそれがホントだとしたら、もしかして気遣わせちゃってる?」
「どうしてそう思うんですか?」
「だっておれが此処に来るから片付けるんだろ」
「そうですけど、迷惑に思ったことなんてありませんよ。俺が、そうしたいだけです」
「なんで?」
「あなたに、いいところを見せたいから、かな」


次男の部屋が、陛下が来る時以外汚かったら~な妄想





 雲は分厚く陽光を遮り、湿気った空気が辺りを包む。
 重い身体を横たえたまま、腕だけを上げると唇を噛み締めている主の頬に触れた。
 途端に紅く染まった指が、彼を汚してしまう。
「コンラッド」
 愛しい者に甘えるかのように、その腕に抱き締められる。震えるほど寒いのに、とても温かい。
 流れていく血液が体温を急速に奪っていくけれど。彼の腕の中で永久に眠れるのなら、俺は世界一の幸せ者だ。

最期くらい、甘えていいよね。





 久々に踏み締めた故郷の大地。ひどく長い旅をした気がする。振り返ればすぐ後ろに名付け親が微笑んでいて、そっと両肩に手を置いた。
「お帰りなさい、陛下」
「ああ、ただいま」
長い間眞魔国に帰らなかったのは、眞魔国だけじゃなく、彼の傍がおれの在るべき場所だからかもしれない。

還る場所





この想いが救われなくても、笑っていられる。報われなくてもそれでいい。今あなたを愛せるということが、何よりの幸福だから。
「ユーリ」
 口にしたのは愛情の形。これ以上は望まない。これ以上などきっとない。
 彼が王であることが、俺にとっての生きる意味で、生きた証となるだろう。

命の意味





 涙すこともなく、目の前の名付け親は微笑んでいる。おれの好きな銀星が散る虹彩は柔らかく輝いていて、それが一種の決意を宿していることに気付いてしまった。
 違うんだ。違うんだよ。あんたに後を追って欲しいわけじゃない。後を追って欲しいわけがない。
 伸ばしたしわくちゃの手を彼の頬にあて、最期にひとつきりの願いを口にした。
 これが彼を生に留める枷になってくれるだろうか。わからない。だけど、どうか。
「生きて」
 生きてさえいれば、再び笑える日がきっと来るから。これは、おれの最期の願い。

生きて。





 決して伝えてはならぬものと諦めていたけれど。この血まみれの身体に縋る温もりに、あなたへの想いは溢れ出していく。
「好きだった」
 これまでずっと。これからもずっと。好きでした。

ずっと、好きでした。





 聞けるはずない。
 想いを寄せる人は名付け親で、臣下で、護衛。しかも男。
 伸ばされた左腕は保護者以上の感情を持って触れてくることはなく、慈しむように細められた瞳も紡がれる言葉も全て、望む答えなど含まれていなかった。
 だから聞けるはずがないんだ。おれのこと、どう思ってる?なんて。

俺のことどう思ってる?





 もう、手を離そう。主であり、恋人である彼が大切で、誰よりも大切にしたい唯一にして最高の王だから。
 俺の傍に居ればきっと幸せにはなれないだろう。弟のほうがずっと、ユーリを幸せに出来る。
今ならまだ間に合うから、彼の前から消えてしまおう。
彼なら大丈夫だ。ほら、手遅れになる前に。

手遅れになる前に/次男出奔前





 言えないんじゃなくて、言わないだけだろ。笑ったのは腐れ縁の幼馴染みだ。
 子供のままだと思っていた、大切な名付け子。
 唯一無二の主は離れている間に、より強く美しく成長していた。その姿に惹かれたのは事実。
 だが、好きだなんて言えない。言える筈がない。だから好きだなんて、言わない。

好きなんて言わない





 髪の一本、骨の一片すら遺さず、唐突に目の前から姿を消したジュリア。
 君とはもう二度と会えないけれど。
「コンラッド」
 甘い声でこの名を呼ぶただ一人の主。誰よりも護りたいと願う人。
 彼に出会わせてくれたことが、俺にとっての全ての救いとなった。そう、彼女は何も残さなかったわけじゃない。

残してくれたのは、眩しすぎるほどの道しるべ。

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