「別れましょう」
嘘のない瞳で真っ直ぐに見つめられた。漸く互いの気持ちを通じ合わせられたというのに、ずきりと胸が痛む。
「なんで?」
嫌いになった? 理由なんて聞きたくないのに、勝手に口をついて出てしまった声は震えていた。
「このままでは、貴方を手放せなくなってしまう」
好きだからこそ離れなければと伝えられた言葉はひどく苦しげで、おれよりも泣きそうだった。
手遅れになる前に。次男はユーリの幸せを願うばかりに傷付けていく系男子だと思うのです。
熱い湯に浸かって上気した頬が、地球で見た林檎のようだと喉が鳴った。蜜の滴る果実は甘美で、何度この手に抱いても満ち足りることはない。
先程まで組み敷いて、他の誰にも見せない彼を堪能していたというのに。
立ったまま後ろから抱き締め、首筋に口唇を押し当てる。擽ったそうに揺れたユーリの濡れた黒髪が頬に触れたけれど、気にせず腰に回した腕を強めれば怪訝そうな声が掛けられた。
「コンラッド?」
突然の行動に緊張しているのか、息を呑んだ音が聞こえた気がした。それらを無視して、けれど怖がらせることのないように絹の髪を撫でる。
風呂上りなせいでまだ火照っている身体が、先刻までの情事を思い出させてひどく煽られた。甘い匂いがして耳朶を食んでみれば、腕の中で跳ねて強張ってしまう。
「ユーリ」
耳元で低く名前を囁いて、同じように思い出させようと鎖骨に指で触れたら、彼の頬が意図を正確に察して更に紅く染まった。
「逆上せてるのかよ」
「そうですね」
まだ風呂に入ってないくせに、と胸に掛かる体重に、笑みが漏れるのは仕方のないことだろう。
「逆上せてますよ、いつだってあなたにね」
えろい雰囲気を目指してみました
煌びやかな夜会を終えて部屋に戻り、学ランを脱ぐとTシャツ一枚になった。窓の外は既に夜闇に包まれ、街灯のない眞魔国では眩しく感じるほどの月光と星がきらきらと輝いている。
珍しく口数が少ない護衛を振り返る。声を掛けようとしたら軽い衝撃の後、視界がぐるりと回ってコンラッドが真上で笑っていた。ベッドに身体が弾んで、痛みはない。体重は掛けられていないはずなのに、置かれた手によって押さえられた肩は動かなくて、そのせいで起き上がることも叶わない。
「コ、コンラッド…?」
「はい」
いつも通り爽やかな笑顔のまま、いつもと変わらない声で、けれど明らかに様子が可笑しくて見上げる。どうしてこんなことをされているのか理由がさっぱりぽんだ。今までの彼の行動を思い返してみるが、いつもより勧められることの多かった酒をコンラッドが受けてくれていただけのこと。
「え、…もしかして」
「はい?」
「あんた酔ってんの?」
「酔ってませんよ」
酔っぱらいは皆そういうんだって! とツッコミたかったけど、首筋に埋められた顔がそれを阻んだ。熱い息が触れて、身体が強張るのを自覚した。
このままどうなっちゃうの? おれ。
酔っ払い次男。
彼の膝に頭を置いたまま、重い腕を伸ばし彼の頬に触れた。指先が温もりに濡れ、黒曜石の瞳は大粒の雨を降らす。
優しい雨に濡れて逝ける俺はなんて幸せなんだろう。哀しみなどひとつもない。
「どうして泣くんですか」
どうか、声を聴かせて。もう一度だけ、笑顔を見せて。
それが俺の、最期の願い。
「コンラッドにとっての幸せって何だと思う?」
唐突な呟きに驚いて、その内容に苦笑が漏れた。
鈍感な王は、本当に気付いていないのだろう。
「ヨザック?」
きょとんと見上げてくる瞳は変わらず澄んだ闇色だ。
彼が幸せでいることが、あの不器用な男の幸せであることなど明白なのに。
幸せ
『皆の願いが叶いますように』
短冊に書き、笹に吊るされた王の無欲な願い。
「あなた自身の願いは?」
「願いが叶う国を作ることが目標」
こんなにも素晴らしい王を戴けたことを誇りに思う。堪らず抱き締め、耳元で囁く。
彼の笑顔が、俺の願いだ。
「あなたのお陰で、俺は幸せですよ」
七夕で前回のログに入れ忘れてました

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