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体重を預けられ、柔らかな黒髪が頬を擽る。 旋毛にキスをすると笑っているのか頭が揺れた。
「陛下?」
「今日くらい訂正させるなよな」
「…ユーリ」
彼の誕生日はあと数時間で終わってしまうけれど。
あなたと共に、今日という日を迎えられたことに、感謝を。
目を覚ましたら、すぐ近くに薄茶の瞳の彼がいた。
視線が絡むと銀の虹彩がやわらかく緩んで、大きな手が頭を撫でてくる。
「誕生日おめでとう、ユーリ」
こんな時ばかり呼び方を間違えない男が憎らしくて、焦茶の髪を掻き回した。
「魂を運んでくれてありがとう、名付け親」
有利誕。
小瓶に入っていたちいさな光が消えてから暫くして、第二子が出来たと勝馬から連絡がきたあの日を忘れはしない。
少し前までジュリアのものだった魂は、次代魔王のものとして母体の中で息づいているのだろう。
彼は確かにこの胸ポケットの中にいたはずなのに。酷く、寂しいんだ。
有利誕生直前。こんな瞬間があってもいいんじゃないかな、と。
じわり、と時間をかけて彼の言葉が、身体中に滲んで広がっていく。頬を温かな水が濡らして、いつもより熱い彼の身体に抱き締められた。
震える声で吐き出されたのは確かに恋情の告白で、疑いようもないはずなのに、おれも同じ気持ちだと云う前に銀の虹彩が揺らいで涙を流していた
泣いてるのはおれじゃない。コンラッドだ。
海があって、空があって、陸地があって、ユーリがいる。
あなたがいて初めて世界が美しいと知れたのだと言えば、きっと笑われてしまうから口には出さないけれど。
きらきらと光に反射する水面も、陽が沈むときの朱色も、大地を覆う緑の生命も、あなたがいて初めて意味が出来たんだ。
あなたがいなければ全て意味がないもの。
窓から見えるしなやかな笹は風に揺れていた。彼が見上げている星々は美しく輝いている。
「願いが叶えばいいな」
彼の優しい呟きにそうですねと返す。笹に託した願いのうち、どれだけのものが叶うのだろう。
俺の願いは、彼が幸せであること。贅沢を言うならば、彼の傍に在ることだ。
七夕
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