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抱き寄せた温もりが動き、美しい黒髪が揺れる。愛しい名付け子は強く優しく成長し、誰からも愛される王になった。
「ありがとうございます、ユーリ」
「おれの台詞だろ、父の日なんだからさ」
 あなたは笑うけれど、それでも言いたい。無事に生まれ、名付け親にしてくれてありがとう。


こんなにも幸せな気持ちをくれてありがとう。





「ユーリ」
 あんたは知らない。その声が、この胸をどれだけ締め付けるのかを。
「ユーリ」
 あんたは知らない。何気ない仕草全てが、知りたくもない感情を植え付けていくことを。
「ユーリ」
 おれは知らなかった。名を呼ばれることが、こんなに嬉しいと思う日がくることを。
知らなければよかった。知りたくなんてなかった。





「お前の誕生日って、おれの二日後くらいだったよな?」
 拍子抜けするほど正されていない勘違いに溜め息を堪える。どうせ今朝方美子さんに話を切り出されたのだろう。
「いいや、今日だよ」
 年齢や誕生日なんて、生まれた年からどれだけ経ったかを記録するためだけの、何も変わらない日常に紛れた一日だ。だけど。
「誕生日おめでとう」
 ショートケーキが入ったコンビニ袋と、その言葉だけでなんだか温かくなったのは、それが渋谷だからなのかな。
「ありがとう」
 ずっと背中に隠していた物はこれだったのかと嬉しくなって笑ってしまう。
「村田は母親とドクターに感謝しとけよ?産んでくれて、魂運んでくれてありがとうって」
 そうだね、こんなに幸せな気持ちになれるのは、彼等のお陰だから。
「ちなみに今のはお袋からの伝言だから」
 ぶっきらぼうに顔を背けてしまったけれど、嬉しいことには変わりはない。
「ありがとう、渋谷」
 今が一番幸せだよ。祝ってくれる友人が隣にいるということが、ほんとうに。
ムラケン誕。4ツイート分くらい。





「ユーリ」
 名を呼び抱き締めてきた彼の腕が、温もりと共に想いを伝える。
 甘い囁きが耳元を擽り、名を呼ぶ声には切なさが混じっていた。思うより柔らかな茶髪に指を差し入れ撫でてやると、首筋に鼻を押し付けられた。
「好きだよ、コンラッド」
 この先も、ずっと。何があっても。
伝えきれないほどの想い。





 閉じてゆく意識の中で茶髪が見えた。
 皺々になってしまった手でそっと撫で、頬まで滑らせると穏やかに微笑んでいる。
 あぁ、こいつは後を追おうとしているんだ。だから彼が断れないのをいい事に、身勝手だとわかっていながら言葉を紡ぐ。
「生きて」
 それがおれの、最期の望みだから。
どうか。





 隻腕になりながらも剣を振るい、炎の中で不敵に笑って。
「言ったはずだ。あなたになら」
 爆風に巻き込まれる彼の姿。最悪の光景を見せ付けられて目が覚め、彼がいない現実を思い知らされる。深い夜の中、おれはこうして繰り返し、夢の中であんたをうしなう。
きっとマ




> 目頭が熱くなり、汗が目に入ってじわりと視界が滲む。伸ばした袖で拭おうとしたら、温もりに視界を覆われてしまった。それが彼の手のひらだと、ずっと前から知っている。
 近付いた吐息。鼓膜を耳心地のよいテノールが擽る。
「言ったはずです」
 砂漠の地での言葉を繰り返すように。いつもこんなタイミングで来るコンラッドが、おれは
とても嫌いで、とても憎らしい。

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