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  <title>まるマ</title>
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    <title>8</title>
    <description>
    <![CDATA[<br />
　誰もいない部屋で瞼を閉じると真っ暗で、何も聞こえなくなった。分厚い扉は隔てた向こう側の音を、完全に遮断してしまっているようだ。<br />
　だが今はそれでいい。それが良かった。<br />
　時折、息苦しさを伴う衝動に駆られる。そんな時、居室ではなく彼の部屋に逃げ込むのは、もう癖だ。<br />
「ユーリ」<br />
　けれど彼は独りにしてくれない。本当に独りになりたい時こそそうしてくれない、魔族三兄弟の三男は、当然のようにすぐ上の兄の部屋を開ける。<br />
　背を向けたままでいたのに、後ろから伸びたしなやかな指が顔を覆った。<br />
「独りで泣くな」<br />
「泣いてねぇよ」<br />
「そうか」<br />
　声を殺し、もう戻ってくるかもわからない、あの珍しい虹彩を持つ瞳を想った。<br />
　さらさらと風に靡く、ダークブラウンの髪を想った。<br />
　おれのために失った、あの左腕を。<br />
「泣いてないからな」<br />
　背後の彼は息だけで笑って、それ以上は何もない。<br />
　だけどだめだ。対等で在りたいと、強がる心が邪魔をする。強い王で在りたいと、願う心が邪魔をする。<br />
　きれいな指が濡れないよう唇を噛み締めた。<br />
　この眞魔国で、無条件に寄り掛かれるのはあの男だけだ。<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;っ、平気だよ。ヴォルフラム」<br />
　誰かの代わりなんて、誰もいないのだから。<br />
　彼がいなくちゃ、上手に泣くことすら出来やしない。<br />
<br />
<br />
<hr size="1" color="gray" />次男出奔中のヴォルフとユーリ<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
　腕の内側に閉じ込めた、彼の寝顔にそっと触れる。<br />
　起きているときは誰より凛々しいユーリは、眠っているときはまるで初めて会った頃のようにあどけない。<br />
　抱いてしまった忠誠以上の想いは、決して口にすることはないだろう。この無防備な横顔は、名付け親にのみ与えられる特権だ。いっときの感情に流されて、彼の純粋な心をかき乱したくはなかった。<br />
　それでも俺は幸せだ。<br />
　染みわたり、泣き出したくなるほどの愛おしい日々。不意に笑いだしたくなるほど優しい時間。<br />
　再び戻ってくるはずのなかった幸福は、時が経つごとに当たり前になり、日常になっていった。<br />
　だが俺は忘れることはないだろう。彼を傷付けた愚かな行為を。先走り、彼を護るために悲しませた不甲斐ない自分を。<br />
　もう二度と、同じ過ちを繰り返さないために。<br />
　忘れたりはしない。 <br />
<br />
<br />
<hr size="1" color="gray" />コンユ　<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
「俺の言葉を信じてくれませんか。大丈夫、あなたならきっと、一人でも幸せになれる」<br />
　そんな事ないと伝えたいのに、言葉が詰まって出てこない。口にしたところで、頑固な人には届かないのだろう。<br />
　笑みさえ浮かべ、醒めることのない眠りに就いた彼は、最期まで、莫迦な男だった。<br />
<br />
<hr size="1" color="gray" />莫迦な男<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　ソファに腰掛ける男に寄り掛かり、わざと体重をかける。雑誌から目を離し、こちらを向いた薄茶に浮かぶ星が嬉しそうに瞬いた。<br />
　時計の秒針を見詰め、かちりと日付けが変わる。<br />
「名付け親記念日おめでとう、コンラッド」<br />
　今日という日に名付け親となった男に云えば、困ったように笑われた。だが瞳はきらきらと輝いている。<br />
「悔しいですね。先に俺が云いたかったのに」<br />
「たまにはいいだろ」<br />
　今年はおれの勝ち。毎年先に云われていたから、いつかと考えていたのだ。<br />
「ありがとう、ユーリ。誕生日おめでとう」<br />
　彼が居たからおれはおれとして生まれて来られた。<br />
「ありがとう。これからも宜しくな」<br />
　来年も同じように、こうして云い合えたらと願ってやまない。一年に一度の、特別な一日。<br />
<br />
<hr size="1" color="gray" />渋谷有利生誕祭１　コンラート＆ユーリver.<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「ユーリ！」<br />
　聞き慣れたボーイソプラノに振り返ると、ヴォルフラムがいた。陽光に煌めく金糸の髪は綺麗なのに、何やら機嫌が悪そうに眉をしかめている。<br />
　城の天井は高く、響くことこそないが、彼の声はよく通った。<br />
「なんだよ、ヴォルフ」<br />
「どうしてぼくが起きたとき、部屋にいなかった」<br />
「ロードワーク行ってたんだよ。いつものことだろ？」<br />
　更に眉を寄せてしまった。折角天使みたいなのに勿体無い。以前見たグウェンダルとよく似た表情とも違うが、機嫌が悪いのは確かなようだ。<br />
「コンラートには言われたのか」<br />
　脈絡のない問いに首を傾げてしまう。覚悟を決めたように眉を吊り上げ、真っ直ぐに見据えられた。<br />
「&hellip;&hellip;いいか、来年はぼくが一番に言ってやる。だからお前も球投げなどではなく、ぼくが起きるまで部屋から出るな」<br />
「は？　なんでだよ」<br />
　相変わらず目的が全くわからなかったが、婚約者と言って譲らない彼は、その表情に漸く笑みを浮かべた。<br />
「誕生日おめでとう、ユーリ」<br />
<br />
<br />
<hr size="1" color="gray" />渋谷有利生誕祭２　ロイカプver.<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　血盟城の通路を歩いているユーリを見付けて、思わず走り出してしまった。今日のために三日前から城に帰ってきていたけれど、やっぱり何日経ってもお父様の傍にいたい気持ちは変わらない。<br />
「どうしたんだ？　グレタ」<br />
「誕生日おめでとう、ユーリ」<br />
　そう告げれば、彼はあの太陽のように明るく、温かく笑ってくれる。そうするとグレタはもっと嬉しくなることに、きっとユーリは気付いてないけれど。<br />
「ずっとずっとグレタの大好きなお父様でいてね。でね、これユーリにあげる」<br />
　アニシナに教えてもらって編んだ、二人のお父様とグレタを模したあみぐるみ。<br />
「地球にいても、グレタ達のこと思い出せるようにだよ。忘れちゃ嫌だよ？」<br />
「ばっかだなあ。忘れるわけないだろ。地球にいる間は、眞魔国のことを考えてるよ」<br />
　今日は、グレタの大好きなお父様が生まれた、大切な大切な一日。だからもう一度繰り返す。心を込めて。<br />
「誕生日おめでとう、ユーリ！」<br />
<hr size="1" color="gray" />渋谷有利生誕祭３　グレタ＆ユーリver.<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　薬瓶の並べられた棚を確認していると、慌てた様子でユーリ陛下が飛び込んできた。部屋には誰もいないと思っていたのか、こちらの姿を認めると驚いた表情になる。<br />
「ごめん、暫く匿って」<br />
　追われているかのように扉の向こうを気にしていた。<br />
　耳を澄ましてみれば、養父が王を呼ぶ声が聞こえる。きっとみっともなく滂沱しながら走り回っているのだろう。<br />
「誕生日おめでとう、ありがとうだけじゃ駄目なのかな。30分くらい喋り続けてるから、逃げてきた」<br />
　呆れているが、笑顔が浮かんでいるあたり、心底嫌がっているわけではないようで安心した。昔はああではなかったから最初は驚いたけれど、あれも彼の素ということだ。<br />
　そして今日という日に、あの器用すぎて不器用な友人は、心を取り戻した。<br />
　その変化を養父は見てきているから、過剰になるのかもしれない。<br />
　眞魔国へお帰りになられてからは、民を、異国の者でさえ、主自身が知らぬ間に救っているのだろう。<br />
「内輪だけの誕生会にするって言ってたのに、もうすげー人数集まってるんだ」<br />
　今日だけで何度も祝われているのか、照れくさそうにしている。けれど私も、その一人に入ろう。彼の誕生を喜ばない者は、この国には一人としていない。<br />
　ならばそれを伝えられる幸運に感謝しよう。<br />
「陛下、ご生誕おめでとうございます」<br />
<br />
<hr size="1" color="gray" />渋谷有利生誕祭４　ギーゼラver.<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
]]>
    </description>
    <category>log</category>
    <link>https://marumaconyu.side-story.net/log/8</link>
    <pubDate>Sat, 28 Mar 2020 03:44:33 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>7</title>
    <description>
    <![CDATA[私が死んだら、ジュリアという存在は終わってしまう。だけど私が生きてきた証は、きっと何処かに息づいているの。前世や来世なんて関係ない。私は私でしかないけれど大丈夫、大丈夫よ。<br />
　彼女はいつも、大丈夫と言っていた。だから俺は繰り返す。<br />
　大丈夫、あなたなら世界の全てを手に入れられる<br />
<hr size="1" color="gray" />ジュリアから与えられたものが、ユーリとの生活の中で生かされていて欲しいです<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　夜会が終わり居室に戻ると、部屋からすぐに出て行かず、名付け親が離れた場所で黙っている。酒を勧められる度受けるのは彼で、申し訳ないとは思いつつ、まだ身長に希望を持っているから禁酒禁煙は守りたかった。<br />
　見なくてもわかる顔は、どうやら機嫌が悪いことを示している。<br />
「フォンロシュフォールの御令嬢と、随分親しげに話されていましたが」<br />
　その先を呑み込んでいたが、もう遅い。少し前にただの保護者から、兼恋人になった男は拗ねているようだ。<br />
　思わず吹き出してしまい、ダークブラウンの細い眉が咎めるように顰められる。<br />
「あぁ、ごめん」<br />
　顔に出ていなかったので気付かなかったが、この男は相当酔っ払っているらしい。考えてみれば、いつもより勧められる酒の回数は多かった。今の一言だって、いつもなら頭を口にする前に自制してしまうだろう。<br />
「この間まで一介の高校生だったおれを、あんな美女が相手にするわけないだろ」<br />
　さっきだって、こちらの方が緊張でガチガチだった。<br />
「あなたはとても魅力的ですよ」<br />
「あー、はいはい。酔ってんだろ」<br />
　酔ってない、という酔っ払い相手との押し問答を期待していたが、どうやら八十年の年の差はそれさえカバーしてしまうほどの経験値を生み出していたらしい。<br />
　振り返った彼はそれはもう爽やかに微笑んで言った。<br />
「酔ってますよ。いつだって、あなたに」<br />
<br />
<hr size="1" color="gray" />君に酔う<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　叶えたいとは、思わなかった。届けたいと、望んだこともなかった。 　例えば、恋だと気付いてしまったこの感情が、万にひとつでも重なる可能性があったのだとしても。彼を幸せに出来るのは俺じゃない。 　柩に納め、火を放つべき感情に鍵をかけ、眠らせよう。 　これでさよならだ。<br />
<hr size="1" color="gray" />永遠におやすみなさい<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　信じられなかった。彼がおれに、剣を向けるなんて信じたくなかった。<br />
　どうしてこんなことになってしまったのだろう。多くの兵士が血溜まりに倒れた。その中には顔見知りの兵士もいた。彼だってそうだろう。それなのに、どうして。<br />
　兵を赤く染めながら、彼の手に掴まれた剣は銀色に煌めく。<br />
　走馬灯が巡る。<br />
　憶えているはずがないのに、幼い頃、初めて彼の腕に抱かれた時のこと。眞魔国に初めて来た時のこと。目前まできたウェラー卿は、目が合うと一番優しい顔で微笑む。<br />
　そしてその切っ先を翻し、自らの胸に突き立てた。<br />
「―――え？」<br />
　崩れ落ちていく身体に、誰もが目を見張った。おれの足元に赤い水たまりが作られていく。ゆっくりとそれは広がり、池へと変わる。<br />
　彼の手によって運ばれ、産まれた命だ。抵抗しなければならないのに、彼の手にかけられる絶望に、身体が動かなかった。彼の手で終わらせてくれるのならそれでいいと、コンラッドの顔を最期に焼きつけようと思っていたのだ。<br />
　それなのに、どうして。<br />
　ダークブラウンの髪はふわりと揺れながら、身体は冷たい床に伏せられる。どうして。<br />
　どうして。<br />
　止めようとする兵士の手を振り切り、駆け寄り顔を覗き込む。<br />
「ユーリ、」<br />
いつものように笑おうとして失敗した顔。見慣れたかたちに動いた唇は、おれが知る中で一番優しい響きを生み出す。<br />
「どうか、最期は」<br />
　息だけで紡がれた言葉は、涙が出るほど哀しくて、苦しい。<br />
　せめて最期はあなたの手で終わらせて。<br />
　なんて自分勝手な男だろう。最低な男なのだろう。それなのに、どうしてこんなにも彼が好きなのだろう。<br />
　大切だから。好きだから。あんたの最期の言葉が、おれに向けてくれたことが嬉しいから。<br />
「わかった」<br />
　本当は、嫌だけど。たとえ敵国の者でも、生きていて欲しかったけれどど。この世界の医療技術では、彼の痛みを長引かせることしか出来ないから。<br />
<br />
――――――さよなら。<br />
<br />
<br />
<hr size="1" color="gray" />せめて最期はあなたの手で<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　答えてしまったら、何もかもが壊れる気がした。<br />
　だけど、こうして想いの丈を表わされてしまっては、もう逃げる術は持っていなかった。 「おれは、&hellip;&hellip;」<br />
　これまで、誰にも言ったことがなかった。言ってはならないと思っていた。だけど、もう向き合うべき時なのかもしれない。<br />
　いつかは向き合わなければならないことなのだから。<br />
「おれは、コンラッドが好きだから。お前の気持ちには応えられない」<br />
　ごめん、と謝ろうとして、彼の声が遮った。<br />
「謝るな。余計惨めになる」<br />
　眉を顰めて、それでも微笑んでくれた。上手くは笑えていなかったけれど、充分だ。<br />
　ヴォルフラムは本当に好きでいてくれたのだろう。心苦しかったけれど、宙ぶらりんなままでいたくなかったのも事実。初めて口にしたあの名付け親への恋情は、伝えられる時はもう来ないのかもしれない。<br />
　最初で最後になるかもしれない想いを聞いてくれた、何よりおれを想ってくれていたことに、一言だけ伝えたいことがあった。<br />
「ありがとう」<br />
　そう告げれば金髪の美少年は指で額を突き、少し偉そうに胸を張る。<br />
「ぼくを選ばないこと、後悔させてやる」<br />
　美少年らしくなくニヒルに笑って、近い将来三兄弟で一番もてるのはこいつかもしれない、なんて苦笑した。<br />
<hr size="1" color="gray" />ヴォルユのようなコンユ<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　例えば時には悪魔だとか。例えば時には神だとか。<br />
　そうでなくても秘密を明かせば付き纏う、環境の変化が酷く居心地が悪かったことをこの魂は憶えている。<br />
　だから全てを知って、『僕』の名を呼んでくれることが、何より嬉しいことなんだよ。悔しいから、きみにだけは教えてやらないけどね、渋谷<br />
<hr size="1" color="gray" />ムラケンは、デレるけど全てを伝える子でもないと思ってます<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　灰色の雲がかかった空を見上げながら、湿った空気を吸い込んだ。<br />
　あの頃、確かに彼女のものでしかなかった魂は主のものとなり、再び誰のものでもなくなった。いつだって守ろうと誓った手は、俺では及ばない力で引きはがされてしまう。<br />
「置いていかないで下さい」<br />
　あなたの元へ、俺も逝きたい。<br />
<hr size="1" color="gray" />人間寿命を全うした有利<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
　置いていかれるのが怖い、とユーリは云う。<br />
　彼だけが歳をとり永久の眠りに就いたとして、他の者は壮絶な空虚を得ても、理不尽なほどに臣下の心臓は動き続けるからだ。だけど、彼は勘違いをしている。<br />
　俺達が彼を置いていくわけじゃない。彼が追い付けない速度で、去ってしまうのだ。<br />
<br />
<hr size="1" color="gray" />置いていくのは俺たちじゃない。<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　古い友人の婚約者だった男の後ろ姿を見つめ、ギーゼラはゆったりと目蓋を伏せた。男は肝心な時になると、女よりずっと弱くなるのよ、と笑っていたのは、あの朗らかな友人だった。<br />
　もう、言葉の真意を確かめる術はない。この手で焼き尽くした、あのひとが生きていた証。<br />
　燃やして、灰にしたのは、 紛れもない彼女だ。<br />
　それぞれの方法で哀しむ二人にとって、ジュリアの存在は大きすぎた。そのせいで死との向き合い方さえ、わからないのだろう。<br />
　ギーゼラとて看取ったのが、火を放ったのが自分でなければ、僅かな希望に縋っていたかもしれない。<br />
　けれど小さくなる背中を見つめながら、莫迦ね、と呟きたくなるのも、仕方のないことだろう。<br />
　彼等がそうすることで、ジュリアの哀しみもまた深くなるのだから。 　アーダルベルトも。コンラートも。<br />
　苦しみから逃れる術もないまま塞ぎこんで、折り合いを付けていくことも出来ないまま。<br />
　想い出になってしまったひとを引き摺りながら、この先も生きていくのだろうか。<br />
　魔族を憎み、離反した男も。己を恨み、哀しみを内に閉じ込めた男も。<br />
　いつか、その心を光あるほうへ導いてくれる存在が現れればいいのにと、ため息を吐いた。<br />
<hr size="1" color="gray" />ギーゼラ視点<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
「どうしてそんなことが聞きたいんだい？」<br />
　本当は彼だってわかっているだろうに、ジョゼはやけに真剣な表情で、尋ねてきた。<br />
　たとえば遠い昔、僕が村田健となる前の、或いはクリスティンとなるずっと前の恋愛話を聞きたがるなんて。<br />
「健ちゃんから、話し始めたんでしょ」<br />
　子供を諭すような話し方は、昔から変わっていない。恋愛なんて、長い間していなかったのだろう。秘密を誰にも明かせず過ごしてきた、これまでの魂の持ち主たち。<br />
「そうだったね」<br />
　小児科医の手が伸びてきて、僕の手を握ってきた。あたたかい。<br />
「話したくなったら、いつだって話してくれていいんだよ」<br />
　もう、あの可哀想な人たちのように隠さなくてもいいのだと、彼は言いたいのだ。その温もりがひどく優しくて、目蓋を閉じる。<br />
　想い出すのはどれも、素晴らしく救われないだけの、恋愛話だ。<br />
<hr size="1" color="gray" />素晴らしく救われないだけの、恋愛話<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「目が見えなくて、不便ではないのか？」<br />
　いつだったか、尋ねたことがある。からかいや興味本位ではなく、予期せぬ石礫に躓き、馬糞を踏んでも懲りず、見える者と同じように動き回る姿に純粋な疑問を持ったのだ。 <br />
　唐突であったが故か、空色の瞳を僅かに大きく見開く。<br />
　抱えた花束の向こうでそれを細め、くすくすと笑い始めた。<br />
「そんなに可笑しいか？」<br />
「不便ではあるわ。だけど、そうね」<br />
　かさりと花束を差し出され、受け取ろうとしたら首を横に振られる。包装紙の中にあるひんやりとした花びらに触れ、鼻を近付けた。<br />
　その花特有の香りがする。<br />
「甘い、いい匂いだな」<br />
　それを聞くと満足そうに頷き、自らもその花に顔を寄せる。<br />
「私にも、甘くていい匂いに感じるわ」<br />
　 愛おしげに花弁を撫で、見えないことが『当たり前』になっている彼女は、何の憂いも出さずに言葉を紡ぐ。<br />
「見えなくても、見えるのと同じくらい。&hellip;もしかしたらそれ以上に、感じるものはあるわ」<br />
「見えること以上に&hellip;」 <br />
「見えないのは不便よ。だけど不幸じゃない」<br />
　どうして、彼女は質問の真意を汲むのが上手いのだろう。決して不幸に見えていたわけでも、同情しているわけでもない。卑下していたわけでもない。<br />
　彼女はそれら全てを理解した上で、質問の意味を言葉にしたのだ。<br />
　 試すような視線を送られて苦笑する。<br />
「きみは見えないはずなのに、誰よりも多くを見ているんだな」<br />
　 そうよ、と彼女は、まるであの青空のように明るく笑ったのだ。 <br />
<hr size="1" color="gray" />次男とジュリア<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「初対面の人は、見えないって理由だけで私をみくびるの。失礼しちゃう」<br />
　そんな言葉を聞いたのはいつのことだろう。 湯気の立つスープに口をつけながら、ジュリアは悪ふざけを思い付いた子供のように笑った。<br />
「でもね、昔はこのお陰で、沢山の悪戯が成功したのよ」<br />
<br />
<hr size="1" color="gray" />アーダルベルトとデート中のジュリア<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　ずっと、守らねばと思っていた。王だから。主だから。そんなものは後付けの理由でしかなく、ただ、その笑顔を守り抜きたかった。守っているつもりだった。<br />
　 だが実際のところはどうだろう。自身を朗らかな気分にさせてくれたのも、偽りない笑顔を浮かべられたのも、全て彼の存在があってこそだった。<br />
　彼を守っているつもりで、ずっと守られていたのは俺のほうだったのだ。こんなにも単純なことに、漸く気付けたけれど。<br />
<br />
<hr size="1" color="gray" />次男は有利を護ってますが、有利は次男を精神的に護っていたらいいな。<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　教師と生徒ってことはわかってる。こうして呼び出すことで、コンラッドに迷惑かかかってると本当は気付いてる。<br />
　だけど、拒否するならそれでいい。本当は嫌だけど、答えをくれるだけで充分なのに、彼はそれすらしてくれないから。<br />
「どうして何も言ってくれないんだよ」<br />
　声が震えていないだろうかと、そんなことばかり気になった。絞り出した言葉は、きっと、今日も彼には届かないのだろう。<br />
<br />
<hr size="1" color="gray" />Asuka付録の教師と生徒ネタ<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　胸を掴まれているだけだというのに、まるで思い切り殴られたような衝撃を受けた。<br />
　小瓶にあった魂は夏の日に生まれ、腕に抱いた小さな身体。１６なんてまだまだ子供だとずっと思っていたのに、気付かぬうちに彼はこんなにも大きくなっていたのだ。<br />
　気付いてしまった今、もう彼をただの名付け子として見続ける自信など、どこにもなかった。<br />
<br />
<hr size="1" color="gray" />気付けば彼は大人になっていた<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　淡い光を放ちながら小瓶に浮かぶ球体を、守りたいと願ったことはないのに。気付けばそう行動している自分に気付いた。<br />
　きっと、初めはジュリアの望みを叶えたかったからだ。<br />
　彼女の魂を、守りたかっただけだ。<br />
　手の中にぎゅっと閉じ込めてみたけれど、今度はその光が見えなくなった。<br />
　手を開いて、いつしか、その光を見つめられれば十分だと思うようになって。だから、そう。<br />
　近くにいて彼の輝きが損なわれるというのなら、遠くからでもいい。<br />
　彼が彼のまま在り続ける未来を選んだだけのことだ。 自分一人がいなくても、彼は王で居られるのだから。<br />
<br />
<hr size="1" color="gray" />次男&rarr;有利<hr size="1" color="gray" />]]>
    </description>
    <category>log</category>
    <link>https://marumaconyu.side-story.net/log/7</link>
    <pubDate>Sat, 28 Mar 2020 03:41:55 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">marumaconyu.side-story.net://entry/70</guid>
  </item>
    <item>
    <title>6</title>
    <description>
    <![CDATA[<br />
　衝動のように抱き締めた温もりは、決して触れてはならないものだ。 彼のために彩られた世界。困ったように見上げてくる大きな瞳は、悲しいほどに真っ直ぐで汚れがない。 伝えられぬ想いと知りながら、伝えてはならぬ想いと知りながら、想いを抱き続ける俺を許してはくれませんか。 同じ想いを返して欲しいなんて言わないから。あなたは笑っていてくれるだけでいい。そのためならば、腕も胸も命も、人生さえもあなたに捧げよう。それが俺の、ひとつの幸福だから。<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
何のしがらみもなく、後ろめたさのひとつもなく。<br />
当然のように彼に従い、明るい笑顔を受け止められたあの頃が懐かしい。<br />
一度彼から離れたこの身体は決して、許してはならないのだと。例え彼が許したとしても、自分だけは許してはならないのだと言い聞かせてきた。<br />
王へ向ける感情ではないと知りながら、彼を困らせるだけの想いを抱き続ける俺を許してはくれませんか。<br />
頑固だと言われることはあるけれど。世界の全てを変えてしまう彼の前では、何もかもが無意味で、輝いて見えた。こんなにちっぽけな俺の、小さな悩みなどあなたを困らせてしまうだけと知りながら。<br />
願うことすら罪だと知りながら。<br />
<hr size="1" color="gray" />だから永久に隠し続ける<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
　久々に踏み締めた故郷の大地。ひどく長い旅をした気がする。振り返ればすぐ後ろに名付け親が微笑んでいて、そっと両肩に手を置いた。<br />
「お帰りなさい、陛下」<br />
「ああ、ただいま」<br />
長い間眞魔国に帰らなかったのは、眞魔国だけじゃなく、彼の傍がおれの在るべき場所だからかもしれない。<br />
<hr size="1" color="gray" />還る場所<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　 聞いて、ギーゼラ。私達も行くことになったのよ。どうしてそんなに悲しい顔をするの？　大丈夫、きっと還ってこれるわ。根拠なんてないけれど、まずは自分が信じなきゃ。<br />
　アーダルベルトには言わないわ。ギーゼラも内緒にしていてね、約束よ。<br />
　ふふ。だってあの人の驚いた顔が一番好きなんだもの。<br />
　すべてが終わって還ったとき、それとも結納してから？　もっと後でもいいわ。ずっと後にあの人に教えてあげるの。<br />
　実はあの戦争に、私も行っていたのよって。<br />
　どんな顔をするのかしら。楽しみでたまらないわ。だからそれまで、内緒にしていてね、ギーゼラ。<br />
<hr size="1" color="gray" />ジュリア&rarr;ギーゼラ<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　アーダルベルトは強い人だもの。そしてとても優しい。<br />
　私がいなくなったらきっととても哀しむと思うけれど、すぐに立ち上がれる人よ。どうしてそんなことがわかるのかって？ そんなの決まってるじゃない。私が愛してる人だから。<br />
　だからわかるのよ。それ以外に理由なんて要らないわ。<br />
　だけどコンラッドは、とても弱くて、優しいから。私がいなくなったら&hellip;&hellip;。魔石を渡したのは本当にお守りになればと思ったのよ。<br />
　あれがあってもなくても私の行動は変わらないし、遅かれ早かれこういう結末は来たのかもしれないわ。それが今というだけ。<br />
　こんなふうに最期に話を聞いてくれるのがギーゼラで良かったわ。大好きよ。そんなに泣きそうな顔をしないで。知っていた？　あなたがいるから、私は今、なんの心配もなく笑っていられるのよ。<br />
ギーゼラは強いから、大丈夫よ。<br />
<hr size="1" color="gray" />ジュリア&rarr;ギーゼラ2<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　傷付いて傷付いて、踏み付けられても尚天を向く彼は稲穂のようだと大賢者は眉を顰める。<br />
　大切な友人が、そうして傷付けられていることも、傷付けられても尚彼が俺を見てくれているということも、気に食わないのだろう。 　それでもいい。今も昔も、誰かの評価など要したことなどなかったのだ。<br />
　欲したのは彼が幸せであること。望んだのは彼の笑顔。それが例え永遠に彼から離れることとなったとしても、彼が幸せでいてくれるということが、俺にとって全ての救いとなっただろう。<br />
　他の誰の評価も要らなかったのだ。彼が幸せでいてくれるのならば。<br />
<hr size="1" color="gray" />あなたがいればそれでいい。<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　傷付いて、傷付けて、傷付けられて、繰り返すのはもう終わりにしよう。<br />
信じ切れずに苦しめて、苦しめていることを嘆いて、彼の笑顔を奪っていたのは俺自身だったのだと、気付くのが遅すぎたけれど。<br />
<hr size="1" color="gray" />ずっと、好きでした。<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　大丈夫よ。彼女はいつも言っていた。<br />
　大丈夫、大丈夫、と。たとえば空が曇っているとき。たとえば誰かが落ち込んでいるとき。<br />
　どんな些細なことでも大丈夫よと、背中を押して笑う。彼女だけが消え何もかもが変わらない世界で、俺は彼に繰り返すのだろう。<br />
　大丈夫、あなたなら世界の全てを手に入れられる。<br />
<hr size="1" color="gray" />何度でも<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　鮮やかに、それは美しく咲き誇る一輪の花。花は儚くいずれ散りゆくように、彼の命もまた、いずれ散りゆくことを俺は考えてもいなかったのだ。<br />
　抱き上げて、抱き締めて、細くなった彼の手は今はこんなにも冷たくなった。あんなにも温かい人だったというのに。<br />
　哀しいですか、と彼は聞く。<br />
　哀しい、とは何だろう。<br />
　頬を伝うものはひとつもなくて、民は哀しみに暮れ、周りの者はまるで光を失ったかのように表情は暗い。<br />
　彼は温かな太陽だった。哀しいことは何もない。哀しむことなど何もない。陽は上り、やがて落ちていく。同じように、彼もまた去っていっただけの事だ。<hr size="1" color="gray" />陽はいつか落ちるから<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　哀しくない筈などないというのに、コンラートはまるでそれが当たり前かのように、穏やかに、笑みさえ浮かべて口にした。<br />
「哀しいことなど何もないだろう、ギュンター」<br />
こんなふうになってしまうのならば、ジュリアの時のほうが幾分ましだとさえ思えた。彼は哀しみを哀しみと認識さえ出来なくなったのだ。 <br />
<hr size="1" color="gray" />かなしいんだね<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　初めは彼を想うだけで満たされた。遠くの地で、彼が健やかでいてくれると願うだけで幸せになれる気さえした。それなのに今はどうだろう。<br />
　彼の後ろを歩き、時折確認するように振り返る彼を見詰めていたら、もっとその視線が欲しくなった。<br />
　もっと俺だけのための笑顔が欲しくなった。<br />
　触れたくなって、指先に灯った熱は次第に大きく、今や全身を焼き尽くさんばかりになって。<br />
　これを親心と言えるのだろうか。信頼してくれている彼の気持ちを、冒涜していることにはならないだろうか。<br />
　もうそんなことさえわからないほどに、彼に溺れているのだと気付いた頃には全身を炎に包まれていた。<br />
<hr size="1" color="gray" />もう逃げ場などなかったのだ<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　「ユーリ」<br />
護ってくれるその腕が、おれを好きだと言っていた。 <br />
「ユーリ」<br />
　見詰めてくる珍しい虹彩は煌めいて、おれを好きだと言っていた。 <br />
「ユーリ」<br />
　時折触れる彼の指先は熱く、おれを好きだと言っていた。<br />
　だけど彼は想いを決して言葉にはしない。こんなにも全身で、叫んでいるというのに。<br />
　認めようとしない、認めたがらないことに気付いていて待っているのは、彼のほうから言葉にしてほしいからだ。<br />
　変なところで頑固なんだよ、と村田に言えば、眼鏡を押し上げながら彼は笑った。<br />
「似たもの親子じゃないか」 <br />
<hr size="1" color="gray" />似たもの親子<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　大丈夫。大丈夫よ。<br />
　ここには誰も来ない。誰もいないから。<br />
　コンラートは彼の地で眠りに就いているわ。優しいだけ、愛おしいだけの、夢を見ていて。<br />
　ユーリ陛下、だからお薬を飲んで。このままではあなたの身体が保たないわ。<br />
<br />
<hr size="1" color="gray" />診断メーカーのです<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　あなたの目に映るもの全てが美しければいい。<br />
　誰より眩しいひとの見詰める先が、幸福だけであればいい。<br />
　生きるように歩き続けた世界は、いずれその足を止めるのだろう。歌うように愛した願いは、やがてその音を止めるのだろう。<br />
　どれだけ無力な腕だとしても、その全てを護れたなら。だから今は何より優しい夜の闇を、そっと抱き締めて囁こう。<br />
　擽るように、ただひとつの願いが届くように。<br />
　疲れたときには、あなたの寄り掛かれる存在であり続けたいから。<br />
「おやすみなさい、よい夢を」 <br />
<hr size="1" color="gray" />おやすみなさい<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　死にたいとは思わないよ、ユーリ。だから泣かないで。泣いてない？ それは失礼。<br />
　だけど、ユーリ。違うんです、俺はあなたの臣下で、護衛で、あと&hellip;&hellip;そう、あなたが赦してくれるのなら、名付け親だと名乗ってもいいですか。<br />
　死にたいわけじゃないんです。ただ、あなたのために死ねるのなら、俺にとってそれは本望だとは想っているけれど。シマロンに居る間も想うのは眞魔国と、あなたのことばかりでした。<br />
　二度と還れないと覚悟しながら、故郷はこの眞魔国で、主はユーリただ一人。どれだけ離れていても、あなたのためならば試練だと信じられた。<br />
　あなたのためになるのなら、幸せだとさえ思えたんです。本当のことですよ。辛いだなんて、感じたことはありませんでした。<br />
　たとえ眞魔国で息絶えることが出来なくても、もう二度と、―――そう、こうしてユーリと話すことは出来なくても、今俺がしていることが後のあなたの幸福に繋がるのなら、それだけで十分すぎた。眞魔国を離れる前にユーリと過ごせた時間はかけがえがなくて、まるで太陽のようにあたたかくて、優しくて、愛おしくて。そんな日々を遠く離れた地で思い出すだけで、泣きたくなるくらい幸せになれたんですよ。これは本当です。<br />
　ああ、だけど、今になって思えばあの時俺は、凍えていたのかもしれない。凍えていることにも気付けなかったけれど、あなたの隣がこんなにもあたたかいから。たったひとつの幸せに縋っていたのかもしれません。 <br />
　 &hellip;&hellip;すみません。そんな顔をしないで。あなたを想うだけで幸せになれたのは本当なんです。だから、ね。笑ってください。<br />
<br />
<hr size="1" color="gray" />次男帰還後<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　コンラッドは幸せだったと云ったけど。<br />
　遠く離れた異国の地で、故郷を思い、過ごした日々を思い出すだけで幸せになれたと。<br />
　だけど、違うんだよ。あんたのそれは『幸せ』なんかじゃないんだ。幸せだと、自分に言い訳をしていただけなんだ。<br />
　そんなことにも気付けなくなっていたんだよ。苦しいこともわからなくなっていただけなんだ。<br />
　おれが哀しい顔をしているように見えるのなら、それはあんたがさせてることだよ。<br />
　だけど一番酷い顔をしているときを、あんたは知らない。きっとずっと知らない。絶対にあんただけは見れない。<br />
　だけどコンラッド以外には見せることになるかもしれないな。なんでだと思う？ おれが一番酷い顔をするときは、あんたが傍にいないときなんだ。だからあんただけは見れない。<br />
　だから、ずっと笑っていて欲しければ。そんな顔をさせたくないって云うのなら。<br />
　離れていくんじゃなくてその分傍にいてくれ。贅沢すぎるって？ 莫迦。<br />
　こんなちっぽけな贅沢なら、いくらでもくれてやるよ。おれは王様なんだからな。<br />
<br />
<hr size="1" color="gray" />離れないと誓ってくれ<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　たとえば不意に触れる大きな手だったり。さり気なく交わされる視線だったり。遠くに見つける彼の気配だったり。 　微笑みの中に欲しい気持ちはないのに、望むのは親心でも友情でもなかった。 「好きになって、ごめん」 　男なのに男を好きになって。子供で居られなくて。臣下として見れなくて。ただの保護者として見れなくて、ごめん。<br />
　溢れ出しそうな想いは止められず。けれど伝えることなど出来るはずもない。<br />
　ヴォルフラムを好きになれていれば、きっと丸く収まるのに。<br />
「ごめん」<br />
　この気持ちが報われる日がくれば、罪悪感からは抜け出せるのだろうか。<br />
<br />
<hr size="1" color="gray" />次男&larr;陛下&larr;三男な一方通行たまらんです<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「そんなふうに走っては危ないですよ、フォンウィンコット卿」<br />
　瞳に光は宿っていないのに、見えている者と同じように歩き、時に駆け出した。<br />
　長く美しい髪を靡かせ振り返った彼女は少し怒って、けれど微塵も嫌な気分を浮かべずに口を開く。<br />
「そう呼ばないようにと何度も言わなかったかしら、ウェラー卿」<br />
<br />
<hr size="1" color="gray" />次男はジュリアにも陛下と似たようなことやっていそうだなと思って<hr size="1" color="gray" />]]>
    </description>
    <category>log</category>
    <link>https://marumaconyu.side-story.net/log/5_69</link>
    <pubDate>Sat, 28 Mar 2020 03:37:03 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>5</title>
    <description>
    <![CDATA[「コンラッドって何か欠点とかないの？」<br />
「ありますよ、沢山」<br />
「まったまたァ。たとえば？」<br />
「そうですねぇ&hellip;片付け下手です」<br />
「いっつも部屋綺麗じゃん」<br />
「それは、あなたが来る前に片付けているんです」<br />
「えー、ほんとにィ？」<br />
「本当です。あなたに嘘なんて吐きません」<br />
「じゃあそれがホントだとしたら、もしかして気遣わせちゃってる？」<br />
「どうしてそう思うんですか？」<br />
「だっておれが此処に来るから片付けるんだろ」<br />
「そうですけど、迷惑に思ったことなんてありませんよ。俺が、そうしたいだけです」<br />
「なんで？」<br />
「あなたに、いいところを見せたいから、かな」<br />
<hr size="1" color="gray" />次男の部屋が、陛下が来る時以外汚かったら～な妄想<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　雲は分厚く陽光を遮り、湿気った空気が辺りを包む。<br />
　重い身体を横たえたまま、腕だけを上げると唇を噛み締めている主の頬に触れた。<br />
　途端に紅く染まった指が、彼を汚してしまう。<br />
「コンラッド」<br />
　愛しい者に甘えるかのように、その腕に抱き締められる。震えるほど寒いのに、とても温かい。<br />
　流れていく血液が体温を急速に奪っていくけれど。彼の腕の中で永久に眠れるのなら、俺は世界一の幸せ者だ。<br />
<hr size="1" color="gray" />最期くらい、甘えていいよね。<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　久々に踏み締めた故郷の大地。ひどく長い旅をした気がする。振り返ればすぐ後ろに名付け親が微笑んでいて、そっと両肩に手を置いた。<br />
「お帰りなさい、陛下」<br />
「ああ、ただいま」<br />
長い間眞魔国に帰らなかったのは、眞魔国だけじゃなく、彼の傍がおれの在るべき場所だからかもしれない。<br />
<hr size="1" color="gray" />還る場所<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
この想いが救われなくても、笑っていられる。報われなくてもそれでいい。今あなたを愛せるということが、何よりの幸福だから。<br />
「ユーリ」<br />
　口にしたのは愛情の形。これ以上は望まない。これ以上などきっとない。<br />
　彼が王であることが、俺にとっての生きる意味で、生きた証となるだろう。<br />
<hr size="1" color="gray" />命の意味<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　涙すこともなく、目の前の名付け親は微笑んでいる。おれの好きな銀星が散る虹彩は柔らかく輝いていて、それが一種の決意を宿していることに気付いてしまった。<br />
　違うんだ。違うんだよ。あんたに後を追って欲しいわけじゃない。後を追って欲しいわけがない。<br />
　伸ばしたしわくちゃの手を彼の頬にあて、最期にひとつきりの願いを口にした。<br />
　これが彼を生に留める枷になってくれるだろうか。わからない。だけど、どうか。<br />
「生きて」<br />
　生きてさえいれば、再び笑える日がきっと来るから。これは、おれの最期の願い。<br />
<hr size="1" color="gray" />生きて。<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　決して伝えてはならぬものと諦めていたけれど。この血まみれの身体に縋る温もりに、あなたへの想いは溢れ出していく。<br />
「好きだった」<br />
　これまでずっと。これからもずっと。好きでした。<br />
<hr size="1" color="gray" />ずっと、好きでした。<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　聞けるはずない。<br />
　想いを寄せる人は名付け親で、臣下で、護衛。しかも男。<br />
　伸ばされた左腕は保護者以上の感情を持って触れてくることはなく、慈しむように細められた瞳も紡がれる言葉も全て、望む答えなど含まれていなかった。<br />
　だから聞けるはずがないんだ。おれのこと、どう思ってる？なんて。<br />
<hr size="1" color="gray" />俺のことどう思ってる？<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　もう、手を離そう。主であり、恋人である彼が大切で、誰よりも大切にしたい唯一にして最高の王だから。<br />
　俺の傍に居ればきっと幸せにはなれないだろう。弟のほうがずっと、ユーリを幸せに出来る。<br />
今ならまだ間に合うから、彼の前から消えてしまおう。<br />
彼なら大丈夫だ。ほら、手遅れになる前に。<br />
<hr size="1" color="gray" />手遅れになる前に/次男出奔前<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　言えないんじゃなくて、言わないだけだろ。笑ったのは腐れ縁の幼馴染みだ。<br />
　子供のままだと思っていた、大切な名付け子。<br />
　唯一無二の主は離れている間に、より強く美しく成長していた。その姿に惹かれたのは事実。<br />
　だが、好きだなんて言えない。言える筈がない。だから好きだなんて、言わない。 <br />
<hr size="1" color="gray" />好きなんて言わない<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　髪の一本、骨の一片すら遺さず、唐突に目の前から姿を消したジュリア。<br />
　君とはもう二度と会えないけれど。<br />
「コンラッド」<br />
　甘い声でこの名を呼ぶただ一人の主。誰よりも護りたいと願う人。<br />
　彼に出会わせてくれたことが、俺にとっての全ての救いとなった。そう、彼女は何も残さなかったわけじゃない。<br />
<hr size="1" color="gray" />残してくれたのは、眩しすぎるほどの道しるべ。<hr size="1" color="gray" />]]>
    </description>
    <category>log</category>
    <link>https://marumaconyu.side-story.net/log/5</link>
    <pubDate>Sat, 28 Mar 2020 03:31:39 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">marumaconyu.side-story.net://entry/68</guid>
  </item>
    <item>
    <title>4</title>
    <description>
    <![CDATA[「すぐに追い付く」<br />
　そう言って、ゆっくりと去っていく男の背中を見詰めた。<br />
　再びこの手を握ってはくれないと、二度と逢えないと思っていたひとは、今まで確かに此処に居たのだ。そしてまた、追い付けば隣に並んでくれるのだろうか。<br />
　手に残る温もりを握り締めて、おれはまた前へ進む。<br />
　大丈夫だ。また会える。そう、信じていれば。<br />
<hr size="1" color="gray" />故郷マ<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　舞踏会を終えて部屋に戻ったら、突然後ろから抱き締められた。首だけで振り返れば予想通りの男。<br />
　ずっと黙っていたと思っていたけれど、何かあったのだろうか。ひしひしと伝わる不安はわかるが、その理由がわからない。<br />
「なにかあったのか？」<br />
「あなたと踊るのが、俺であれば良かったのに」<br />
<hr size="1" color="gray" />嫉妬次男<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　手に入れてはならないひと。求めてはならないひと。<br />
　欲することなど許されないというのに笑顔を与えられる度、名を呼ばれる度、貪欲になっていく自分がいた。<br />
「コンラッド？」<br />
　向けられた黒い瞳に誘われるように、その身体を抱き締めてしまう。<br />
　慌てる彼を離さずに口の中で呟く。今だけは、どうか。 <br />
<hr size="1" color="gray" />どうか。<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「どうしたらおれのものになるんだよ」<br />
　声は絞り出されて、苦しませたいわけじゃないのにと手を伸ばした。俯いているせいで前髪に彼の瞳が隠れて見えなくなっていた。<br />
「俺のすべては、あなた１人のものです」<br />
　首を振って否定され、どれだけ言葉を募っても信じてはくれない。この心の内を見せてしまえたら良いのに、俺にはその術さえ持たなかった。<br />
<hr size="1" color="gray" />もどかしい<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　冷えた口唇を触れ合わせ、もう此処に彼の心はないのだと涙が零れた。<br />
　人間のように老化して皺だらけになった細い身体。ただ一人の主さえ喪ったこの世界で、彼との約束を果たすために俺は生きなければならない。<br />
　だから今は赦して欲しい。今一度、その名を紡ぐことを。これで最期にしよう。この名前は、あなただけに向けるものだから。<br />
「ユーリ」<br />
<hr size="1" color="gray" />あなたがいない世界では、この名前に意味などないのだから。<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　最後の指が離れ、ゆっくりと距離が広がっていく。<br />
　海に棲むコンラッドの友人達に運ばれて。彼は気付いただろうか。<br />
　還るべき場所に戻ることを約束した腕は、かつて彼のものではなかったということに。彼は何かを想っただろうか。<br />
　漸く触れ合えたそれが、左手だったことに。<br />
<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　雲間から差し込んだ光が、ユーリの姿を照らしていた。<br />
　特に意味のない、そういう現象もあるということの一つだというのに、彼が関わるだけで途端に特別な意味を持つ。<br />
　グラウンドに立つ彼は眩しげに目を細めているだけで気付いていないが、あぁ綺麗だと、単純に、そう思ったのだ。 <br />
<hr size="1" color="gray" />レンブラント光<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　優しい笑顔が好きだった。どれだけ想ってもきっと、戻っては来ないけれど。<br />
　胸元の魔石を握ろうとして、さっき投げ捨てたことを思い出した。自分でも気付かないうちに、あるのが当たり前になっていたのだろう。<br />
　空白が重くて目を閉じる。コンラッドの、優しい笑顔が好きだった。<br />
<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　突然のことで、最初は状況がわからなかった。<br />
　いつもおれを護ってくれる逞しい腕で、強く抱き締められて。爽やかな笑顔を浮かべている男が発する声は震えて痛ましく、此方まで苦しくなってくるようだ。<br />
「あなたにすべてを捧げます。ほんのひと握りでいい、あなたをください」<br />
<hr size="1" color="gray" />ほんの一部でいいから。<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　目の前の大切な人は、大粒の涙を黒曜石の瞳から溢れさせている。<br />
　自らの手で拭おうとしたけれど、赤が彼の顔を汚してしまった。この命が尽きるとき、彼が居てくれることがとても幸せだ。<br />
「ずっと、お慕いしていました」<br />
　赦されぬものとわかっているけれど、これが最期ならば。 <br />
<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「あなたが好きです」<br />
　真っ直ぐな薄茶の瞳で、彼は唇に乗せた。嘘ではなくても、おれの想いは彼と重ならない。<br />
　結局のところ、この男にとっておれは魔王ユーリでしかないことも、名付け子でしかないことも、わかっていたからだ。<br />
「うそつき」<br />
　ずっと見ていたんだ。そのくらいわかるよ。<br />
<hr size="1" color="gray" />うそつき<hr size="1" color="gray" />]]>
    </description>
    <category>log</category>
    <link>https://marumaconyu.side-story.net/log/4</link>
    <pubDate>Sat, 28 Mar 2020 03:28:23 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">marumaconyu.side-story.net://entry/67</guid>
  </item>
    <item>
    <title>3</title>
    <description>
    <![CDATA[<br />
　「別れましょう」<br />
　嘘のない瞳で真っ直ぐに見つめられた。漸く互いの気持ちを通じ合わせられたというのに、ずきりと胸が痛む。<br />
「なんで？」<br />
　嫌いになった？　理由なんて聞きたくないのに、勝手に口をついて出てしまった声は震えていた。<br />
「このままでは、貴方を手放せなくなってしまう」<br />
　好きだからこそ離れなければと伝えられた言葉はひどく苦しげで、おれよりも泣きそうだった。<hr size="1" color="gray" />手遅れになる前に。次男はユーリの幸せを願うばかりに傷付けていく系男子だと思うのです。<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　熱い湯に浸かって上気した頬が、地球で見た林檎のようだと喉が鳴った。蜜の滴る果実は甘美で、何度この手に抱いても満ち足りることはない。<br />
　先程まで組み敷いて、他の誰にも見せない彼を堪能していたというのに。<br />
　立ったまま後ろから抱き締め、首筋に口唇を押し当てる。擽ったそうに揺れたユーリの濡れた黒髪が頬に触れたけれど、気にせず腰に回した腕を強めれば怪訝そうな声が掛けられた。<br />
「コンラッド？」<br />
　突然の行動に緊張しているのか、息を呑んだ音が聞こえた気がした。それらを無視して、けれど怖がらせることのないように絹の髪を撫でる。<br />
　風呂上りなせいでまだ火照っている身体が、先刻までの情事を思い出させてひどく煽られた。甘い匂いがして耳朶を食んでみれば、腕の中で跳ねて強張ってしまう。<br />
「ユーリ」<br />
　耳元で低く名前を囁いて、同じように思い出させようと鎖骨に指で触れたら、彼の頬が意図を正確に察して更に紅く染まった。<br />
「逆上せてるのかよ」<br />
「そうですね」<br />
　まだ風呂に入ってないくせに、と胸に掛かる体重に、笑みが漏れるのは仕方のないことだろう。<br />
「逆上せてますよ、いつだってあなたにね」<br />
<br />
<hr size="1" color="gray" />えろい雰囲気を目指してみました<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　煌びやかな夜会を終えて部屋に戻り、学ランを脱ぐとTシャツ一枚になった。窓の外は既に夜闇に包まれ、街灯のない眞魔国では眩しく感じるほどの月光と星がきらきらと輝いている。<br />
　珍しく口数が少ない護衛を振り返る。声を掛けようとしたら軽い衝撃の後、視界がぐるりと回ってコンラッドが真上で笑っていた。ベッドに身体が弾んで、痛みはない。体重は掛けられていないはずなのに、置かれた手によって押さえられた肩は動かなくて、そのせいで起き上がることも叶わない。<br />
「コ、コンラッド&hellip;？」<br />
「はい」<br />
　いつも通り爽やかな笑顔のまま、いつもと変わらない声で、けれど明らかに様子が可笑しくて見上げる。どうしてこんなことをされているのか理由がさっぱりぽんだ。今までの彼の行動を思い返してみるが、いつもより勧められることの多かった酒をコンラッドが受けてくれていただけのこと。<br />
「え、&hellip;もしかして」<br />
「はい？」<br />
「あんた酔ってんの？」<br />
「酔ってませんよ」<br />
　酔っぱらいは皆そういうんだって！　とツッコミたかったけど、首筋に埋められた顔がそれを阻んだ。熱い息が触れて、身体が強張るのを自覚した。<br />
　このままどうなっちゃうの？　おれ。<br />
<br />
<hr size="1" color="gray" />酔っ払い次男。<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　彼の膝に頭を置いたまま、重い腕を伸ばし彼の頬に触れた。指先が温もりに濡れ、黒曜石の瞳は大粒の雨を降らす。<br />
　優しい雨に濡れて逝ける俺はなんて幸せなんだろう。哀しみなどひとつもない。<br />
「どうして泣くんですか」<br />
　どうか、声を聴かせて。もう一度だけ、笑顔を見せて。<br />
<hr size="1" color="gray" />それが俺の、最期の願い。<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
「コンラッドにとっての幸せって何だと思う？」<br />
　唐突な呟きに驚いて、その内容に苦笑が漏れた。<br />
　鈍感な王は、本当に気付いていないのだろう。<br />
「ヨザック？」<br />
　きょとんと見上げてくる瞳は変わらず澄んだ闇色だ。<br />
　彼が幸せでいることが、あの不器用な男の幸せであることなど明白なのに。<br />
<hr size="1" color="gray" />幸せ<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
『皆の願いが叶いますように』<br />
　短冊に書き、笹に吊るされた王の無欲な願い。<br />
「あなた自身の願いは？」<br />
「願いが叶う国を作ることが目標」<br />
　こんなにも素晴らしい王を戴けたことを誇りに思う。堪らず抱き締め、耳元で囁く。<br />
　彼の笑顔が、俺の願いだ。<br />
「あなたのお陰で、俺は幸せですよ」<br />
<hr size="1" color="gray" />七夕で前回のログに入れ忘れてました<hr size="1" color="gray" />]]>
    </description>
    <category>log</category>
    <link>https://marumaconyu.side-story.net/log/3</link>
    <pubDate>Sat, 28 Mar 2020 03:23:44 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">marumaconyu.side-story.net://entry/66</guid>
  </item>
    <item>
    <title>2</title>
    <description>
    <![CDATA[体重を預けられ、柔らかな黒髪が頬を擽る。 旋毛にキスをすると笑っているのか頭が揺れた。<br />
「陛下？」<br />
「今日くらい訂正させるなよな」<br />
「&hellip;ユーリ」<br />
彼の誕生日はあと数時間で終わってしまうけれど。<br />
あなたと共に、今日という日を迎えられたことに、感謝を。 <br />
<hr size="1" color="gray" />名付け親誕。<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />

<p>目を覚ましたら、すぐ近くに薄茶の瞳の彼がいた。<br />
視線が絡むと銀の虹彩がやわらかく緩んで、大きな手が頭を撫でてくる。<br />
「誕生日おめでとう、ユーリ」<br />
こんな時ばかり呼び方を間違えない男が憎らしくて、焦茶の髪を掻き回した。<br />
「魂を運んでくれてありがとう、名付け親」 </p>
<hr size="1" color="gray" />
<p>有利誕。</p>
<hr size="1" color="gray" />
<p><br />
<br />
<br />
<br />
　小瓶に入っていたちいさな光が消えてから暫くして、第二子が出来たと勝馬から連絡がきたあの日を忘れはしない。<br />
　少し前までジュリアのものだった魂は、次代魔王のものとして母体の中で息づいているのだろう。<br />
　彼は確かにこの胸ポケットの中にいたはずなのに。酷く、寂しいんだ。</p>
<hr size="1" color="gray" />
<p>有利誕生直前。こんな瞬間があってもいいんじゃないかな、と。</p>
<hr size="1" color="gray" />
<p><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　じわり、と時間をかけて彼の言葉が、身体中に滲んで広がっていく。頬を温かな水が濡らして、いつもより熱い彼の身体に抱き締められた。<br />
震える声で吐き出されたのは確かに恋情の告白で、疑いようもないはずなのに、おれも同じ気持ちだと云う前に銀の虹彩が揺らいで涙を流していた</p>
<hr size="1" color="gray" />
<p>泣いてるのはおれじゃない。コンラッドだ。</p>
<hr size="1" color="gray" />
<p><br />
<br />
<br />
<br />
　海があって、空があって、陸地があって、ユーリがいる。<br />
　あなたがいて初めて世界が美しいと知れたのだと言えば、きっと笑われてしまうから口には出さないけれど。<br />
　きらきらと光に反射する水面も、陽が沈むときの朱色も、大地を覆う緑の生命も、あなたがいて初めて意味が出来たんだ。</p>
<hr size="1" color="gray" />
<p>あなたがいなければ全て意味がないもの。</p>
<hr size="1" color="gray" />
<p><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　窓から見えるしなやかな笹は風に揺れていた。彼が見上げている星々は美しく輝いている。<br />
「願いが叶えばいいな」<br />
　彼の優しい呟きにそうですねと返す。笹に託した願いのうち、どれだけのものが叶うのだろう。<br />
　俺の願いは、彼が幸せであること。贅沢を言うならば、彼の傍に在ることだ。</p>
<hr size="1" color="gray" />
<p>七夕</p>
<hr size="1" color="gray" />]]>
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    <category>log</category>
    <link>https://marumaconyu.side-story.net/log/2</link>
    <pubDate>Sat, 28 Mar 2020 03:20:17 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>1</title>
    <description>
    <![CDATA[抱き寄せた温もりが動き、美しい黒髪が揺れる。愛しい名付け子は強く優しく成長し、誰からも愛される王になった。<br />
「ありがとうございます、ユーリ」<br />
「おれの台詞だろ、父の日なんだからさ」<br />
　あなたは笑うけれど、それでも言いたい。無事に生まれ、名付け親にしてくれてありがとう。<br />
<hr size="1" color="gray" />こんなにも幸せな気持ちをくれてありがとう。<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「ユーリ」<br />
　あんたは知らない。その声が、この胸をどれだけ締め付けるのかを。<br />
「ユーリ」<br />
　あんたは知らない。何気ない仕草全てが、知りたくもない感情を植え付けていくことを。<br />
「ユーリ」<br />
　おれは知らなかった。名を呼ばれることが、こんなに嬉しいと思う日がくることを。<hr size="1" color="gray" />知らなければよかった。知りたくなんてなかった。<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「お前の誕生日って、おれの二日後くらいだったよな？」<br />
　拍子抜けするほど正されていない勘違いに溜め息を堪える。どうせ今朝方美子さんに話を切り出されたのだろう。<br />
「いいや、今日だよ」<br />
　年齢や誕生日なんて、生まれた年からどれだけ経ったかを記録するためだけの、何も変わらない日常に紛れた一日だ。だけど。<br />
「誕生日おめでとう」<br />
　ショートケーキが入ったコンビニ袋と、その言葉だけでなんだか温かくなったのは、それが渋谷だからなのかな。 <br />
「ありがとう」<br />
　ずっと背中に隠していた物はこれだったのかと嬉しくなって笑ってしまう。<br />
「村田は母親とドクターに感謝しとけよ？産んでくれて、魂運んでくれてありがとうって」<br />
　そうだね、こんなに幸せな気持ちになれるのは、彼等のお陰だから。<br />
「ちなみに今のはお袋からの伝言だから」<br />
　ぶっきらぼうに顔を背けてしまったけれど、嬉しいことには変わりはない。<br />
「ありがとう、渋谷」<br />
　今が一番幸せだよ。祝ってくれる友人が隣にいるということが、ほんとうに。<hr size="1" color="gray" />ムラケン誕。４ツイート分くらい。<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「ユーリ」<br />
　名を呼び抱き締めてきた彼の腕が、温もりと共に想いを伝える。<br />
　甘い囁きが耳元を擽り、名を呼ぶ声には切なさが混じっていた。思うより柔らかな茶髪に指を差し入れ撫でてやると、首筋に鼻を押し付けられた。<br />
「好きだよ、コンラッド」<br />
　この先も、ずっと。何があっても。<hr size="1" color="gray" />伝えきれないほどの想い。<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　閉じてゆく意識の中で茶髪が見えた。<br />
　皺々になってしまった手でそっと撫で、頬まで滑らせると穏やかに微笑んでいる。<br />
　あぁ、こいつは後を追おうとしているんだ。だから彼が断れないのをいい事に、身勝手だとわかっていながら言葉を紡ぐ。<br />
「生きて」<br />
　それがおれの、最期の望みだから。<hr size="1" color="gray" />どうか。<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　隻腕になりながらも剣を振るい、炎の中で不敵に笑って。<br />
「言ったはずだ。あなたになら」<br />
　爆風に巻き込まれる彼の姿。最悪の光景を見せ付けられて目が覚め、彼がいない現実を思い知らされる。深い夜の中、おれはこうして繰り返し、夢の中であんたをうしなう。<hr size="1" color="gray" />きっとマ<hr size="1" color="gray" /><br />
<br />
<br />
<br />
&gt;　目頭が熱くなり、汗が目に入ってじわりと視界が滲む。伸ばした袖で拭おうとしたら、温もりに視界を覆われてしまった。それが彼の手のひらだと、ずっと前から知っている。<br />
　近付いた吐息。鼓膜を耳心地のよいテノールが擽る。<br />
「言ったはずです」<br />
　砂漠の地での言葉を繰り返すように。いつもこんなタイミングで来るコンラッドが、おれは<hr size="1" color="gray" />とても嫌いで、とても憎らしい。<hr size="1" color="gray" />]]>
    </description>
    <category>log</category>
    <link>https://marumaconyu.side-story.net/log/1</link>
    <pubDate>Sat, 28 Mar 2020 03:17:36 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>ささやかな愛をどうぞ</title>
    <description>
    <![CDATA[<br />
　たとえば彼が傍にいて、たとえば笑いかけてくれて。<br />
　そうしたひどく優しい刹那の積み重ねに、どうしようもないほど満たされていく。自らが付けた名を呼んで、彼が呼ぶ俺の名は特別な響きを持ち、きらきらと胸に降り注いで幸せを募らせた。<br />
　だから、想いに気付いたときには信じられなかった。こんなにも、浅ましくて、卑しくて、純粋な人に向けるには穢らわしいほどの、恋情を抱いてしまったことが。<br />
　どうして好きになどなってしまったのだろう。どうして臣下のままで、名付け親のままでいられなかったのだろう。どうして、気付いたりしたのだろう。<br />
　ユーリは絶対の存在であり、永遠の主。彼がいるから今の自分が在るというのに。<br />
　弟と無邪気に同じベッドで眠る姿に目を逸らしたくなったり。グレタにだけ与えられる穏やかな笑顔を羨んだり。<br />
　気付いてしまえば何の不思議も疑問も生まれない些細なことに、いちいち心が揺るがされていた。<br />
　ちりりと胸を焼き付ける炎に名前をつけたくはなかった。<br />
<br />
　音を立てないように扉を開けると、キングサイズのベッドでユーリが眠っていた。<br />
　溺れるほど柔らかい布団には、ヴォルフラムも一緒に寝ている。彼の婚約者だから、何も後ろめたいことはないだろう。それなのに、ひどく胸を締め付けられた。<br />
　ベッドの脇に立ち、寝息をたてる主に手を伸ばす。顔にかかる髪をよけ、その寝顔を見つめようとして。けれど何も出来ずに握りしめる。一瞬でも触れてしまえば、感情の熱は指先を通して伝わってしまいそうだった。<br />
「陛下、起きてください」<br />
「んー、あと五分&hellip;」<br />
　お決まりの台詞さえ心を満たしていく感覚を味わいながら、けれど決して伝えてはならないと目蓋を下ろす。<br />
　春になるにつれて気候は暖かくなっているが、日本育ちの主にはまだ寒いようで毛布は手放せていない。<br />
「もう三番目覚まし鳥も鳴きましたよ。キャッチボールとロードワークは諦めますか？」<br />
「えっ、もうそんな時間！？」<br />
　布団をはね飛ばして起き上がり、サイドテーブルに置いている時計を確認した。眠気の覚めた双眸で見上げられる。<br />
「おはようございます」<br />
「おはよ。陛下って呼ぶなよ、名付け親」<br />
「&hellip;&hellip;ユーリ」<br />
　彼の名を呼ぶだけで愛しさが湧き出す。この世の何より大切で、きれいなものだけを見せていたいのに、己の感情がそれを阻んだ。<br />
　その一線を越えぬよう努めても、名付け親と呼ばれる度に意志が崩れそうになってしまう。蓋をして閉じこめておくべき想いは、厳重に鍵をかけても容易に溢れた。<br />
　用意していたジャージを渡すと素早く着替え、中庭に向かうユーリの少し後を歩く。行き先は勿論中庭だが様子がいつもと違い、ちらちらと此方を気にしているようだ。<br />
「何かありましたか？」<br />
「うん、最近あんた、悩んでることとかあんの？」<br />
　どきりとした。彼にだけは隠さねばならない恋情は、たやすく見破られそうになる。だが漠然とした違和感を抱えていながら、形には成っていないのだろう。<br />
　それは単純に、主の恋愛の対象外だからという理由に他ならない。<br />
　話に集中しようとして歩く速度を遅くしたせいで、距離が近くなって考える時間まで短くなった。<br />
「そうですね」<br />
　聡いひとだから、下手な誤魔化しは利かないだろう。<br />
　あなたが好きですと、伝えてしまえれば何かが変わるだろうか。想いを届けたとき、受け止めてくれるのだろうか。<br />
　受け止めてくれるのかもしれないが、同時に彼を悩ます種になると確定していた。<br />
　既に婚約者がいるというのに、伝えて何になる？　困惑と、戸惑いと、要らぬ気遣いばかりを生み出して、それだけ。<br />
「どうしたらユーリが一回で起きてくれるのか、俺はいつも悩みっぱなしですね」<br />
「うっ」<br />
　冗談めかして告げれば、眉を垂らして大袈裟に動揺して見せる。本当は悩んでなどいないし、むしろ朝のやりとりさえ胸を満たしていく幸せの欠片だ。<br />
　はぐらかしたと気取られてしまっては意味がないから、精一杯『名付け親』の顔をする。それ以上の感情など悟られてはならない。なかったことにしてしまわねばならない。<br />
「けれど俺はあなたのことを考えられるだけで幸せなので、悩みなんて最初からないも同然なんですよ」<br />
「そういうことは女の子に云うもんだろ」<br />
　彼以外にそんなふうに考えたことなどない。少々ひっかかったような顔をしていたが、すぐに一人で納得してまた数歩前を歩き出した。<br />
　もう、今の彼の頭にはロードワークのことばかりだろう。<br />
　ユーリに聞こえないよう小さくため息を零す。<br />
　何よりも大切だから決して云わない。<br />
　だからどうか、気付かないでいて。<br />
<br />
]]>
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    <category>プレゼント</category>
    <link>https://marumaconyu.side-story.net/fore/%E3%81%95%E3%81%95%E3%82%84%E3%81%8B%E3%81%AA%E6%84%9B%E3%82%92%E3%81%A9%E3%81%86%E3%81%9E</link>
    <pubDate>Sat, 28 Mar 2020 03:13:39 GMT</pubDate>
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    <item>
    <title>しあわせのかたち</title>
    <description>
    <![CDATA[<br />
「なあ、あれ見てみようぜ」<br />
　黒髪と少しでも顔を隠すために深くかぶった布から、表情が垣間見えた。好奇心に輝く黒曜石の瞳と満面の笑みは、この世のすべてを照らし出してしまいそうだ。どうやら市場に並んだ見慣れぬものに、興味をそそられて仕方がないらしい。<br />
「へい&hellip;&hellip;坊ちゃん、あまり離れないでくださいね」<br />
　暑いこの季節にも、城下の人々が明るく仕事をしているのがわかる。人混みに揉まれながら、決して離れないように繋いだ手に力を込めた。気になるものには誘われるかの如く近寄っていくから、少しだけ心配ではあるけれど、何よりも代え難い魅力でもあった。<br />
　雑踏をものともせず隙間を縫って、目的の場所へと辿り着いてしまう。風に煽られて外れそうになったフードを手で押さえながら、見ようとしていたものを覗き込んだ。<br />
「どれですか？」<br />
　布が柔らかに頬を擽るがそのままにして、示すものを目で探す。低い机に無造作に並べられているのは民芸品の類で、木で出来た玩具や硝子細工の置物など様々だ。硝子細工のほうは一見しただけでも欠けていたり傷があるから、恐らく貴族相手には売り物にならなくなったものを出回らせているのだろう。<br />
　そのうちの一つを手に取り物珍しさに目を輝かせる姿は、愛らしいことこの上なく笑みが漏れてしまう。眺めている木製の人形を、そっと抜き取った。<br />
「これ欲しいんですか？」<br />
　言いながら一通り妙なものがついていないか確認すると、金を払おうとしたが慌てたユーリが首を横に振る。<br />
「違う、違うって！　おれじゃなくて、グレタが喜びそうだなって見てただけだから！」<br />
　確かによく見れば女児向けの人形で、彼にとっての愛娘への贈り物には丁度良い代物だ。<br />
「それにしばらくグレタは帰ってこれないだろ？　だからお土産はまた今度買うことにするよ」<br />
「そうですか？」<br />
「うん。―――ごめんな、冷やかすみたいになっちゃって」<br />
　店主に人形を返すと店から少し離れ、大通りから逸れたところでユーリは足を止めた。<br />
「あー、小腹が減ってきたかも。おやつになるものとか売ってないかな？」<br />
「軽食でよければこの先にいつも露店が出ていますよ。味は庶民的だけど。どんなものが食べたいですか？」<br />
「うーん、片手で食べられるようなのがいいな。フランクフルトとかアメリカンドッグとか&hellip;あるかな？」<br />
「もちろん。それを買ったら少し休憩しましょうか。今日は暑いから、フードを取れる場所に案内しますよ」<br />
「まじ？　やった！　もう暑くて、今すぐにでも取っちゃいたいくらいだ。っていっても、眞魔国は日本よりずっと涼しいけどな」<br />
「水分補給と休憩はこまめに取ってくださいね」<br />
「わかってるって。なあ、早く食い物買おう」<br />
　フードに気を遣っていることと身長差のせいもあり、上目遣いになっているのに頬が緩んでしまう。歩き出してすぐに、一帯に食べ物を扱う的屋がちらほらと目に入った。主食になるものや、地球で見かけたアイスクリームやマフィンのような甘いお菓子もある。<br />
　待ちきれないとでも言いたげに足はうずうずと今にも走り出しそうだ。視線は既に何を食べようかと選び始め、追い打ちとばかりに何かの生地が焼けた匂いがするから空腹感が増すのだろう。<br />
　主の腹を満たすため、その先へと足を進めた。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
***<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「さあ、ここですよ」<br />
　軽食を購入したあと、広めの草原に移動した。そこは大人にあまり知られていなくて、子供の遊び場になることのほうが多い。太い幹に緑色の葉が枝いっぱいにつき、木陰が作られたところに主は嬉しそうに座ってしまう。汚れてしまわないようにと布を敷く必要はないようだ。<br />
「おおー、涼しーっ。日陰ってだけでこんなに違うものなんだな」<br />
　被っていたフードを外すのを手伝いながら、目を細めて風を感じるユーリを見つめた。雑草が青々と茂る緑野は、植わっている大木の陰に隠れてしまえば人目につかなくなる。<br />
　手を伸ばしてきた彼に買ったものを渡した。<br />
「サンキュ。なあ、あんたも立ってないで此処座れば？」<br />
「ええ、じゃあお言葉に甘えて」<br />
　叩いて示された隣に腰をおろし、幹に凭れる。爽やかな風にそよいだ木の葉の陰が、少年王の顔に映って時折動いた。真っ青な空に白い雲のコントラストが美しく、彼に似合いの背景だ。<br />
「眺めもいいし、よくこんなところ知ってたな」<br />
「子供たちに聞いたんですよ。気に入ってくれたのなら良かった」<br />
「うん。すっげー気に入った。草刈って、ここで野球したいくらいだ」<br />
「今日は何も持ってきていませんし、それはまた今度ね」<br />
　わかってるって、と笑った彼が手に持ったものにかぶりついた。タコスやサンドウィッチに似たもので、肉や野菜が包まれている。<br />
「如何ですか？」<br />
「美味しいよ。あ、そうだ」<br />
「どうかしましたか」<br />
「あのさ、さっきのことなんだけど」<br />
　口に合ったようで安心するが、何かを言いたげな瞳に少しだけ緊張した。街を見ていて何か気に障るところでもあったのだろうか。<br />
「あんまり何でもかんでもおれに買い与えたりとか、しなくていいからさ。ほら、ちゃんと小遣いの範囲で買えるし」<br />
　傷付けぬよう言葉を選び、食べ終えた包み紙をくしゃりと握る。戸惑いながら告げられたのは、己の行動についてだった。口唇のはしについたソースを拭ってやり、覗き込んで真意を探る。<br />
「嫌でしたか？」<br />
　こんな言い方をして優しいユーリが頷けるはずもないことを、わかっていて実行するのは卑怯だと自覚している。だが否定の言葉ですらその口から零されたものならば、全てを受け入れたい。彼の手を包み込むと、詰まっていた言葉が吐き出される。<br />
「嫌じゃない。嫌じゃないけど、そういう言い方は意地が悪いぞ、コンラッド」<br />
「すみません」<br />
　胡乱な目を向けられて素直に謝ると嘆息される。離さないままで、だけど、と反論すれば僅かに逸れた視線がまた此方を向いた。<br />
「恋人が欲しいものをプレゼントしたいと思うのは、おかしいですか？」<br />
「う&hellip;&hellip;」<br />
　恋人という単語に目尻に赤みが差す。<br />
　言外に俺の気持ちは迷惑ですかと尋ねているようなものだと、理解している。それでも彼の言葉で全て聞かせて欲しいから。<br />
　しばしの沈黙のあとごくりと息を飲んで、まっすぐに見つめられる。何かを伝えなければいけないとき、逸らすことなく相手と目を合わせられるのは長所だ。<br />
「嫌だとかおかしいとか、そういうんじゃない。あんたが物で釣るようなやつじゃないってのもわかってるけど、自分で買える範囲のものは自分で買いたいんだ。お金の数え方だってまだまだ完璧じゃないくらいだし、少しでも慣れておきたいんだよ」<br />
　懇願するような眼差しを向けられてしまえば、No.と言えるわけがない。こんな仕草さえ天然でやっているのかと思うと、自覚したころにはその美貌で落とされた者は数え切れなくなっていそうだ。<br />
「わかりました」<br />
　あからさまに安堵されて寂しくもなるが、困らせたいわけではないから気付かない振りをして立ち上がる。<br />
「そろそろ日も傾いてきましたし、城へ帰りましょうか」<br />
「なんで？　まだ全然明るいじゃん」<br />
　まだ外にいたいと意義を唱えられる。二人きりの時間を望んでくれているのかと嬉しくなるが、後のことを考えれば首を横に振るしかなかった。<br />
「これ以上遅くなると、ギュンターの抱擁もより過剰になっちゃいますよ？」<br />
「&hellip;&hellip;それは嫌かも」<br />
　手を差し出すと自らのそれを添えて立ち上がり、草原を見渡す。何処までも続くような緑と、西に傾こうとしている太陽。今はお忍びのために衣服は庶民的だが、隠していない漆黒の髪がなびく。<br />
　夏の日差しは強いけれど、空気は乾いているから心地よいのだろう。目を眇めて蒼を見上げると、横顔しか見えなくなってしまった。<br />
　深呼吸をして自然の匂いを嗅いでいるひとの身体を、腕に閉じこめる。<br />
「なに？」<br />
「&hellip;いいえ」<br />
「行くんだろ？」<br />
「はい」<br />
　矛盾しているとわかっていながら黒髪に顔を埋め、一瞬だけ目を閉じて、彼の身体を解放した。<br />
「その前に、これをかぶってください」<br />
「そうだった」<br />
　照れくさそうにフードをかぶると、黒髪が見えなくなってしまう。<br />
　頭を覆う布に触れ、他の誰の気配もないことを確認すると目尻にキスをする。瞬間、ざあ、と一際強い風が吹き抜けた。草が波立ち、去っていく。<br />
「&hellip;&hellip;っ」<br />
　口付けたのは一瞬でも、彼の顔は夕焼け色に染まったまま。耳まで赤らめて固まっている。それ以上のことをしていても変わらぬ反応をくれる恋人が、ひたすらに愛おしい。<br />
「&hellip;&hellip;ユーリ」<br />
　自らがつけた名を呼べば、硬直が解けた名付け子が眉を釣り上げた。<br />
「コンラッド、あんたなあ&hellip;&hellip;！」<br />
「続きはまたあとで、ね」<br />
　片目を瞑って笑えば、照れ隠しのつもりか足早に進んでしまう。後ろ姿を見つめながら、じわりと幸せを噛みしめた。<br />
　風は止んで、雲の流れも元に戻る。あと一時間もすれば青空は燃えるような色にかわり、そしてまた夜が訪れるのだろう。<br />
<br />
　明日も明後日もその先も、今日のような日々が続けばいいのにと。<br />
　そんなことを思いながら、先を行く主を追いかけた。<br />
<br />
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    <link>https://marumaconyu.side-story.net/fore/%E3%81%97%E3%81%82%E3%82%8F%E3%81%9B%E3%81%AE%E3%81%8B%E3%81%9F%E3%81%A1</link>
    <pubDate>Sat, 28 Mar 2020 03:12:35 GMT</pubDate>
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